―――それから3年の月日が経った。
「司令資格試験受かったの!?おめでとう!!」
そう喜びを見せたのは彩音。彩音のレアな珍しいテンション高めな反応にたじろぐ鼎。
「受かるまでに3年かかったが、これが第1歩だから…」
2人は休憩室にいる。珍しい彩音のリアクションを見ていつもの仲間達もやってきた。
この頃になると晴斗は既に高校卒業し、社会人になっているのだが高校時代の活躍から正式に隊員に認められたため→案の定ゼルフェノア本部に就職。
「超難関の狭き門を突破しただけでもすごいんだよ。今年は鼎しか合格しなかったってどこかで聞いた。それだけ合格率が低いんだよ…すごいよ」
とにかく称え、褒めまくる彩音。親友の合格がめちゃくちゃ嬉しかった。
彼女は司令資格試験を3年がかりで合格にこぎつける。この超難関試験の対象はゼルフェノア隊員だけなのだが、とにかく難しすぎると有名。
その年の合格者はゼロが当たり前のようになっているだけに、合格者が出るなんて稀なわけで。特に指揮能力を問われる実技試験が難関だとは聞いていた。筆記試験の倍、難しいと。
過去に出た司令資格試験の合格者はこの3年間、ゼロ。
この司令資格試験、最短で受かった人でも2年はかかっている。最短は北川元司令だ。
晴斗も喜びを滲ませた。
「鼎さんおめでとう〜!」
晴斗の組織の制服姿はだんだん馴染んでいる様子。御堂は少し照れていた。
「お前、本当に合格しやがった…!」
そんな御堂に突っ込む梓といちか。
「たいちょーデレた!」
「素直に喜べよ〜。快挙なんだぞこれは」
それを温かく見守る桐谷と霧人。
「この組織は大きく変わりますよ」
「あ〜、桐谷さんもそう見てんのか。もしかしたら歴代最年少司令が誕生するかもしれないな。女性司令って…いたっけ」
休憩室は祝福に包まれていた。
本部司令室。鼎はようやく戻ってきた。
いきなり宇崎から祝福の言葉をかけられる。
「おめでとう。お前なら必ずやれると思ってたよ。
これで俺は研究に専念出来る」
「…私はまだ『合格した』だけですよね…。資格はあっても任命されるとは限らないと聞きました」
「憐鶴(れんかく)は確かにそうだね。でもさ、ゼノクはこの3年間でえらい変わったぞ。
二階堂は正式に隊長になったし、憐鶴は司令に任命。西澤室長は副司令になったんだとさ。副司令は司令のサポート役だから、西澤は司令室に残ることを選択したよ。解析班も出来たし」
ゼノクは長官引退以降、全体的に指揮クラスが若返った。
鼎と同年代の憐鶴が司令になっていたなんて。二階堂がいつの間にか隊長になっていたのも初耳。女性の活躍が目覚ましいゼノク。
「室長は今まで司令と研究室長兼任していたが、いつ司令を退くんだ?辞めると散々言ってたのに…3年経ってるぞ」
「お前が司令になる準備をしてから、俺は司令を辞めるよ。こっちは制服の手配とか色々あるだろ?
司令の制服は紺色だ。デザインは詰襟タイプなのは同じだが、これは司令にしか着れない特別な色なんだよ。鼎が合格するまで待ったんだ、準備は俺がする。
……組織を変えたいんだろ?」
鼎はうなずいた。
「…副司令がいないのが気になるが…」
そう呟く鼎。本部は今まで副司令というポジションがなかった。
「俺が司令辞めた後だと鼎だけになっちゃうな…。それは負担がかかりすぎる。
お前にはサポート役が必要だよ。でもそこまで考えてはいなかった。
副司令についてはもう少し考えさせてくれる?指揮クラスのOBを現役に復帰させることは確か、出来たはずだからもしかしたら…北川を副司令に出来るかもしれないんだよ。鼎からしたら頼もしいだろ?」
そんなシステムあったんだ…。
どこかで聞いた話だが、支部の副司令はOBから現役に復帰させた人らしい。
だからなのか、副司令は司令よりも年長者が多い。
ゼノクでも鼎の快挙を喜んでいた。司令室に駆け込む二階堂と上総(かずさ)。
「朗報朗報〜!本部の紀柳院が司令資格試験に合格したぞ!!」
「鼎さんすごいよ!」
腐れ縁の2人はこの3年の間に恋へと進展。
司令室には憐鶴と西澤がいる。
「……知ってたよ。芹那とイチは騒ぎすぎ」
そっけない反応の憐鶴。いつの間にか彼女は隊員に対して名前や愛称で呼ぶ率が高くなっていた。敬語キャラは戦闘時だけに変えた模様。
二階堂も仲間が相手だとラフなタメ口で話すようになる。
これは上総が「芹那は固くなりすぎなんだよ。タメ口で話してもいいのに」…と言ったのがきっかけ。
苗代と赤羽は憐鶴のキャラ変に最初はついていけなかったが、今は慣れた。
なんだ、本当はタメ口で話したかったんだ。
実は憐鶴・苗代・赤羽は同年代。
憐鶴も内心喜んでいる。同年代の女性司令がもうひとり増えるのだから。
本部はほぼ鼎が司令になるのは確定だろうな。…と西澤副司令が言っていた。
鼎の合格から約1ヶ月後。
宇崎は彼女に引き継ぎをしつつ、鼎の司令任命の準備を進めている。鼎の司令任命は近い。
副司令は組織のシステムを運用し、北川を指名した。
班長になったいちかは時々てんてこ舞いになりながらも、班長ライフを満喫している。どうやら班長は楽しい模様。
「平和だからといってのほほんとしてられないよね。訓練しないと感覚が鈍っちゃうよ」
鼎は某日、司令に正式に任命される。任命式は本館講堂で行われた。
宇崎から鼎へ司令が引き継がれる。
彼女は真新しい紺色の詰襟タイプの制服に身を包んでいた。鼎は緊張している様子。
任命式は短時間だった。本部司令になった実感がいまいち湧かない。
だんだん司令になったと実感するのだろうか…。
その日の帰り。彩音と鼎は本部近くの老舗洋菓子店・洋菓子処 彩花堂へ寄った。
この日の本部はいつもよりも早く帰れている。役職者も。
彩音は鼎にお祝いのケーキを買ってあげたくて。
「いらっしゃいませ〜」
風花が笑顔で迎えた。彩音はこんなことを鼎に言った。
「今日は私のおごり。好きなの選んでいいよ。そうだな〜…6個くらいなら好きに選んでよし!今日はお祝いだからね」
彩音がおごるなんて珍しい。親友が司令になったことが相当嬉しいのだろう。
風花は鼎の制服を見た。…あれ?制服の色が変わった?前来た時は白だったのに、今は紺色だ。
風花は思いきって聞いてみる。
「つかぬことをお聞きしますが…今日は鼎さんのお祝いなんですか?制服変わりましたよね」
遠慮がちに答える鼎。
「……風花、司令になったんだ。今日任命式があって…正式に任命されたんだ」
「だから今日は私のおごりでケーキを買おうと思ったの。鼎はここのケーキ好きだからさ」
やけにテンション高い彩音。
バックヤードにいた風花の母親が出てきた。どうやら「お祝い」というワードを聞いて出てきた模様。
「あら、鼎ちゃん司令になったの!?おめでとう」
「お母さん出てこないでよ〜」
「いいじゃない。あ、そうだ。風花、そのチョコチップクッキーおまけで入れてあげて。私達からのお祝いよ。細やかだけど」
おまけして貰っちゃった…。
風花の母親は2人に言う。
「鼎ちゃんと彩音ちゃん、ここの常連さんでしょう。これくらい構わないわよ〜」
風花の母親が親戚のおばちゃんに見えてきた。みんなのお母さんって感じなだけにお客さんに愛されてる。
帰り道。
「今日はとりあえずケーキでお祝いだけどさ、そのうち仲間を集めてパーティーしようよ。
きっと集まるよ〜」
「彩音。パーティーの前にしなければならないことがあるからそれが終わってからでいい?」
……?
「司令になったから寮から本部敷地内の宿舎に引っ越さないとならないんだ。
司令は宿舎に住まないとならないらしい」
「寮と大して距離変わらないのに!?」