「やぁ。今日は有り難う」
ええ。
「もう会ってはくれないかと思ったよ」
なぜ?
「あまりにしつこく付け回したし、今は通い過ぎてる」
自分がおわかりなのね。でも大丈夫。
「? なぜだい?」
私は全人類が嫌いだから今更あなた一人にどうこう考えたりしないわ。
「……ふむ。成程ね」
ねぇ、
「何かな」
今、外はどうなっているの? 変わったことは在る?
「表層の変化なら山と在るが……そうだね。深層は相変わらずさ」
と、言うと?
「ははは。これじゃどちらが取材されているかわからないよ」
ああ、ごめんなさい。けれど気になってしまって。
「そう……だろうね。うん、まぁ、結局皆同じと言うことだよ。不景気だ格差だ政権交代だと並んでも、人は死んで生まれている。事情が違うだけでね」
そう。……死んで、生まれて……殖えているのね。
「ああ」
……。
「ところで、」
?
「きみは今塀の中だ。きみはその、僕から見てひどく華奢な手で実に三十人程殺した。津山三十人殺し再来と書くメディアも在ったけど、」
そうらしいわね。
「なぜ、殺したんだい?」
陳腐な質問ね。
「いや、まぁ、……一番の謎だからさ。きみは所謂お嬢様、良い家の娘だった。お父さんは市議会議員で」
訂正させてもらうなら、父は義父よ。
「……ああ、うん。で、お母さんは茶道の家元の娘。お嬢様のお嬢様だ。箱入りとも言える。幼等部から大学までのエスカレータ式にそれこそ三才から通っている。洗い浚いしてもきみと被害者たちとの接点は無い」
……在ったわ。
「え?」
あなたたちよ。
「僕、ら?」
そう。『マスメディアコミュニケーション』。
「……」
あとはネットね。
「きみは……『正義の味方』になりたかったのかい?」
私が罪人ばかりを────出所したあるいは時効で逃げ切った、どうしようもない人間を皆殺ししたから?
「……いや。違うよな。だからわからないんだ、どうして、きみは」
……。────敢えて言うなら私、さっき言ったのが理由よ。
「さっき?」
全人類が嫌いって言ったでしょう? アレよ。
「アレが……動機?」
そうよ。
「それは、どう言う……」
私の家は無駄に人が出入りしてた。気持ち悪かった。
「気持ち悪い?」
そうよ。夏も冬も秋も春も、お義父さんの知り合いって大人が家を無駄に出入りしていたの。片や三才から子供の群れに限定付きで放牧された。気持ち悪かった。酸素の減りが早いのか息は苦しいし暑いし……気持ち悪かった。私ね、嫌いなの。体温とか匂いとかそう言う人間臭さ。ほら、猫は子供に人間の臭いが付くと殺しちゃうでしょう? そんな感じ。
「だから、殺したの? 三十人も。……じゃあ罪人ばかりだったのは……」
だって、みんな納得するでしょう? “あー、あの人はああ言う罪を犯したから殺されたのか”って。少なくとも一般人を殺害するよりは。
「きみは……」
私はね、みんな嫌いなの。だから殺したの。
「そう……」
その内……。
「ん?」
ここも静かになるわよ。
『少女Mに対する考察』
・彼女は極度の人嫌いだった。子供のころから大勢の人間に囲まれ育った。小さいころから人前で強要される品行方正のプレッシャーが彼女を歪めたのだろうか。まだまだ彼女には取材をするべき要素が在る。
「……と。まぁこんなもんか。
……そう言えば今日はやけにこの医療刑務所は静かだな」
【Fin.】
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思い付きの会話文。
No.1001241358
『ある記者と女性囚人の対話』
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