Grenier


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走り書き童話[真っ赤な鷽つき]
2011/03/20 01:31
ある日、一羽の鷽が、鬼の島へとやって来ました。
腹を空かせた様子の鷽に、白梅と白桜は声をかけます。
貴方の美しい歌声をきかせておくれ、さすれば私の花を食わせてやろう、と。
彼らは、その美しい朱に一目惚れをしたのです。
鷽は美しい花を食らうことが、好物なれど嫌いでした。
それは花を愛でる心をもっていたからです。
しかし度しがたい空腹には敵わず、彼らに歌を聞かせることにしました。

とある夜、梅はこっそり鷽に言いました。
桜はあまり食ってやるな、奴は身体が弱いからな。
そのかわり私を食うがいい、なに、私は丈夫だ。
ただし私だけの為に、もう一度歌っておくれ。
梅は鷽を独り占めにしたくなり、桜を気遣う振りをして唆しました。
桜を哀れんだ鷽は、梅の言い付け通り、夜にこっそり歌を聞かせることにしました。

さて、幾年か経った頃、島の鬼達が花見へ降りてくるとの噂が流れ着きました。
何でも鬼達の暮らす山の上には悪い火付けがいるらしく、花咲く木々を次々と焼き捨ててしまったそうです。
中でも鬼のお頭は大層ご立腹で、見つけたらこの手で火炙りにしてやると息巻いているとのこと。
鬼が恐ろしくなった鷽は、梅と桜に隠れこっそり宴会を覗き見することにしました。
すると酒を飲みかわす鬼達の中に、一際美しく、しかし荒々しい鬼を見つけたのです。
輝く白銀の毛並み、煌めく黄金の瞳、その鬼は息を飲むほど美しく、鷽はたちまち恋に落ちました。
鬼達が去った後、鷽は桜にあの白銀の鬼を知っているかと尋ねました。
彼奴は鬼のお頭で、その日の機嫌で動く様な横暴な奴さ。
桜も梅も不快な様子で、鷽はそれ以上美しい鬼の話を出来なくなってしまいました。

もう一度、一目で良い、あの鬼に逢いたい。
いつしか鷽の頭はそれで一杯になりました。
しかし、鬼達は険しい山の上に住んでいます。
鷽のか弱い翼では、山頂まで昇るなど到底無理な話です。
それでも諦められなかった鷽は、一つの名案を思い付きました。

そうだ、火付けの振りをして捕まろう。


その日の夜、梅は煤になりました。
恋に盲目となった鷽は、花を愛でる心を忘れてしまったのです。
鬼達に連れていかれる鷽の姿に、桜は涙を流します。
きっと火付けが鷽に罪を擦り付けたのだ。
大切な梅と鷽を一度に無くした悲しみに、桜は鬼になることを誓いました。

青鬼はお頭の次に、いやそれ以上に、火付けを目の敵にしていました。
焼けた花弁に顔を焼かれたからと喚き、一刻も早く鷽に制裁をと息巻く次第。
しかし、お頭は訝しんでいました。
何やら様子がおかしい。
お頭はことの真相を確かめるため、鷽の牢へとやってきました。
鷽は頬を赤らめ、涙を流して喜びます。
これはやはりおかしい。
お頭は鷽に、偽りはないかと尋ねました。
愛する貴方に偽りなど申してはおりません、間違いなく私があの梅を焼いたのです。
陶酔した様子の鷽に、お頭は本当の火付けが誰なのか気付いてしましました。
この鷽が焼いたのは、きっとあの白梅だけなのだろう。


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