姫宮満月には炭酸飲料を飲ませるな、という話がある。

「…………何で炭酸飲料を飲ませたら駄目なんですか?」
テレビドラマの撮影現場にて、
有栖川澪は満月の婚約者である芳樹にそう訊ねた。
「ああ、満月ちゃんは炭酸が苦手でね。
昔からなんだ。
シュワシュワしたものが嫌いなんだよ。」
「…………それじゃあ、アルコールもダメなんじゃないですか?」
「………うん、そうだね。まだ未成年だから飲ませていないけど、
炭酸がダメならアルコールもダメかなぁ。」
「澪ちゃーん、ちょっといいかなー。」
「あ、はい。………でも満月さんにも苦手なものあったんですね。」
「そりゃ、人間だもの。嫌いなものとか苦手なものは誰にだってあるさ。」

澪を見送った芳樹のところに、守り刀である和泉守兼定がやってきた。
「そらよ、差し入れだ。若旦那様。」
「ありがとう。満月ちゃんの前では炭酸飲めないからね。」
「…………あの子に言わんで良かったのか?
お嬢様が炭酸飲料を飲んだら、酔っ払うって。」
「………言えるわけないだろ。
満月ちゃん、酔っ払うと感度良くなるって。澪ちゃんにはまだ早すぎる。」
「だろうな。」
あはは、と笑う和泉守に芳樹はため息をついた。
「炭酸水もダメだからなぁ、お嬢様。」
「…………誰だよ、炭酸水が美容に良いとか言っていたの。」

そういうと芳樹は缶コーラの蓋を開けて、いっきに飲み干した。


終わり。