境内を一通り、見回した後、芳樹と綾人は物吉に満月と美穂を任せて
飲み物を買いに行った。
「…………満月ちゃん、ここのところ忙しかったんじゃない?」
「そうですか?やっと裏方の仕事ができるようになったので、一安心ですけど。」
「満月ちゃん、裏方ホントに好きねぇ。」
「いや、どちらかというと芳樹さんを支えるのが元々だったので。
でも不知火さんに気に入られて女優デビューするなんて思いもよらなかったんですけどね。」
「普通はそうだもの。
でも、満月ちゃんを見るなり清光だ!って言ってオーディションをしなかった不知火さんも
結構強者よ?」
「そうですねぇ…………。
音楽作家兼デザイナーとしてもてんやわんやなのに、そこに加州清光の役もあったから
余計に疲れちゃって。」
「だけど、満月ちゃんの体調を考えてくれて無理のない範囲内で色々と考慮してくれたものね。」
「そこら辺には感謝していますが…………。」
「けれど、満月ちゃんの清光はホントにハマり役よ。」
「でも宝塚だけはお断りです。さすがにあれはきつい。」
「それもそうよね。
宝塚歌劇団は色々と制約があるもの。」

ニコニコと笑いながら話をする美穂に満月はふにゃ、とふやけた顔をした。

「お待たせ、満月ちゃん。美穂さん。」
「だいぶ待たせたようだな、すまない。」
「いいのよ、別に。混んでいたんでしょう?」
「お疲れ様です、芳樹さん。綾人お兄様。」

「………おや?そういえば、あちらの方が少し騒がしいようですね。」
物吉の言葉に4人はん?と一斉に顔を向けた。

「だーかーら、あんたとはやっていけないって言ったのよ!」
「何だと!?俺の何処が気に食わないんだ!?」

「………痴話喧嘩ですか?」
「痴話喧嘩ね。」
「………こういったところで喧嘩をするとは…………。」
「何か色々と無駄な時間を過ごしていないかい?彼ら。」

「大体、あんたってばいっつも貧乏くじ引くじゃない!
このシスコンロリコン!」

「………芳樹さん、お兄様?どうなされましたか?」
「…………いや、何ていうか男の方に親近感を沸いたような…………。」
「………奇遇だな、私もだ。」
「止めに入るわよ。せっかくの祭りなのに台無しじゃない。」

そういうと美穂は喧嘩をしている男女の元に駆け寄った。

「はいはい、喧嘩はそこまで!神聖な神社で喧嘩はよろしくないわよ?
ここの神主さん、穏やかだけど怒ると怖いんだから。」

「あ、貴女は………。」
「姫宮美穂さん………!?」
「あら、自己紹介は要らないみたいね。……で、何で喧嘩していたのかしら?」
「こいつが悪いんです!私と夏祭り行く約束していたのに妹と遊ぶことになったって!」
「だからまだ妹が未成年で小学生だから、1人歩きをさせたらまずいんだってうちの母さんに言われたんだって
言っているだろう!?」
「あら、じゃあ一緒に夏祭りを楽しめばいいだけの話じゃない。
それとも妹さんが邪魔なの?」
「邪魔とは言っていないんです、ただ約束を前後するなって………!」
「なら、一緒に回りなさいな。まだ小さい子は同性がいてくれると、物凄く安心するのよ。
異性同士だと、ちょっと色々面倒事が発生してしまうから。
………そこのバカなんて、満月ちゃんと同じ性別の守り刀を同伴させなかったばかりに
職質を受ける羽目になったのよ。笑えないでしょう?」

「……………。」
「………………。」
「だから、一緒に回ってあげなさいな。別にお兄ちゃんべったりな子ではないのでしょう?」
「………まぁ、確かに。同性がいてくれた方が助かると言えば助かる……のかな。
職質受けるのは嫌だし。」
「はい、無事解決。ほら、お互いに謝る。頭冷えたでしょう?」
「……何かごめん。」
「………こっちもごめん。」

「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんやっと仲直りした!もう、私のことで喧嘩するのやめてよね!」
パタパタとジュースを持ってきた男性の妹が2人に声をかけた。

「…………お兄ちゃん達がごめんなさい!せっかくの夏祭りなのに、不謹慎ですよね!?」
ペコペコと周りに頭を下げる妹に兄はあわわわ、と叫んだ。

「何だ、空気を読んで黙っていたのか。良い妹さんじゃないか。」
「そうですよ、大事にしてあげてください。」
「ああ、そうだな。…………まぁ、職質はマジで笑えないから………。」
「ですね。」
「はい、解散!痴話喧嘩も終わったことだし、夏祭りを楽しみましょう!!」


続く。