鼎の行動力は目覚ましいものがあった。新体制になってからは積極的に「いい怪人」が住む地区を訪れたり、現状把握に勤しんでいる。
鼎の警護をする梓は少しだるそうに呟いた。
「あんた本当に変わったよね。平和になったのを機に積極的になってる。
身体の調子はどうなのさ…。無理すんなよ」
「無理はしてない」
「鼎のその言葉…怪しいなぁ。帰るぞ。新体制になってから鼎は働きすぎなんだよ。ブラックって言われるぞ。気持ちはわかるが激務はやめなさい。…休め。新体制になってからまともに休めてないだろ」
梓は梓なりに心配していた。
鼎の身体は火傷のダメージもあり、健康体ではない。
3年前のあの指揮だって、こいつは無理してたと後から北川から聞いた。倒れそうになるまでやるなよな…。
ただでさえ鼎の身体は負荷がかかりやすいってのに。
現在、鼎はようやく手袋を外せるようになった。それまでは火傷の跡が気になり、手袋をなかなか外せなかったのに。
今では彼女の手の火傷の跡はほとんど目立たない。ほとんど消えていた。
だが、季節問わず長袖なのにはまだ抵抗があるのだろう。手は見せられるまでには大丈夫になったが、まだ鼎の心の傷は深い。
仮面に関しては必要不可欠なため、少しちぐはぐになっている。
顔の大火傷の跡はまだ……。目のダメージも気になるところだが、今のところは問題ない。
鼎と梓は本部に戻った。そして梓は御堂に押しつける。
「御堂。鼎を休ませてくれ。
我が強くてなかなか言うこと聞いてくれないから、強引に戻ってきた」
「梓…強引だな」
「新体制になってから鼎は働きすぎてんだよ。しばらく発作は出てないが、鼎は健康体じゃない。
だから無理やりにでも休ませることにしたってわけ。
御堂…宿舎に送ってやってくれない?彼女、大事なんでしょ!?」
御堂は鼎を見る。明らかに疲労の色が見えている。
「お前、無理すんなよって言ったじゃん…。部屋に送ってやるから。発作起こしたら大変だろうが…」
「…和希、迷惑かけてすまない…」
「迷惑じゃないから。鼎は自分をもっと大切にしろよ。自分の心配をしてくれよ…!」
ゼルフェノア本部宿舎。
御堂は鼎を部屋まで送る。
「じゃあな。俺は戻るよ」
「和希…もう少しいてくれないか…。不安なんだ…」
「わかったよ、ちょっとだけな。お前、本当は怖いんじゃないのか…。重圧とか責任とかで」
「重圧は感じている。憐鶴とはプライベートでも連絡しているが、それでも不安で怖くて」
御堂は鼎を後ろから抱きしめる。
「和希…何してるんだ!?」
「お前を安心させてんだよ。落ち着いてきたか?」
「……うん」
「いいから休めよ!お前の身体の負荷は並みの人間よりもかかりやすいことを忘れるな…。
火傷のダメージは未だにあるからな。だから休め。お前に死なれるのは嫌だから…」
御堂はそう言うと部屋から出ていった。
………和希…。
鼎の部屋には人間態の対怪人用ブレード・鷹稜(たかかど)がいた。
「鼎さん、身体…大丈夫じゃないですよね…。寝た方がいいですよ」
「鷹稜はわかっていたのか」
「何年あなたと共にしてるんですか。それくらいわかります」
「心配してくれてありがとう。しばらく寝るから起こさないで欲しい。部屋に誰か来たら鷹稜が出てくれ」
「承知しました」
後日。鼎は大事を取って休むことにする。
御堂は気が気じゃない。
あいつ、梓のいう通り働きすぎたのかな…。
鷹稜から聞いたが、発作をいつ起こしかねない状態だったと聞いた。
頑張りすぎちゃうのかね。
これじゃあ会えないじゃん…。
その翌日、鼎は出勤していた。慎重になる御堂。
「だ…大丈夫なのか?お前」
「病院にも行ってきたから大丈夫。梓のいう通り、働きすぎだった」
「……バカ。だからお前は頑張りすぎなんだよ…!
こっちの身にもなれよ!」
御堂の「バカ」は愛のある言い方。
屋上。
「なんでそんなにも頑張ろうとしてんだよ。無理してまでさ。身体壊すぞ」…と、御堂。
「いい方向に持っていきたいんだ。がむしゃらは私には向いてないようだ。
だから私が無意識に無理してると感じた時は止めて欲しい。遠慮なんかいらないから。
和希なら出来るだろう?」
「当たり前だ」
少しの間。
「『幸せ』ってなんだろうね…。彩音は私に幸せになって欲しいと言ってたが、まだわからないんだ」
「とりあえず現状維持でいいんじゃないの。鼎の幸せがなんたるかがわからないなら」
2人はなんとなく空を見上げた。空は晴れ渡っている。
2人がこれからどうなるかはまた別として。
新体制はなんとか軌道に乗りつつある。これは仲間達のアシストのおかげなわけで。
「和希、あの言葉信じてるから」
「『幸せにしてやる』発言ね。そのうち実現させるから。……いつになるかわからないけどな」
「それでも構わないよ」
―完―