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さようなら。

自分は明日、この世からいなくなる。
たった一人、目の前の人を残して。

「ほら、薬湯。飲んで…。」

ふわりと立ち込めるハーブの匂い。
朝早くにしかこのハーブは咲かないから、目の前のこの人は早起きしたのか。

小さく笑うけど、体が動かないから。
笑ってるのか笑ってないのか、良くわからない。
でも、目は開くから。
……泣きそうな顔してる、いつもひょうひょうとしてるのに。

どうしたの?悲しいのかな。

ハーブで作られた薬湯を差し出して来るけど、僕はゆっくりと“いらない”とか細い声で拒否した。
お皿をベッドのサイドテーブルに置くと、彼は項垂れた様にイスに座った。

今日は優しい。
いつも意地悪で養子としてケンジさんのところに連れてこられてから、意地悪な事も酷い事もたくさんしてたのに。

「……カイくん。」

小さく僕の名前を呼ぶと、ケンジさんは優しく…でも、強く僕の手を握る。
握り返す力なんて残ってない。

あぁ、そうか。
祈るように僕の名前を呼ぶ声も、力強く握る手も僕の為なんだ。

意地悪も酷い事も彼の、ねじ曲がった愛情だったんだ。
そうする事で、僕が逃げ出さないか試してたんだよね?


彼は、愛されたかったんだ。


もう、眠いや。
お休みなさい、ケンジさん。
僕も、愛していたよ。

僕の名前を呼ぶ声を聞きながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
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