秋田禎信
『魔術士オーフェン』の作者のデビュー作です。
これを高校生が書いたということに衝撃を受けましたし、その若い才能に打ちのめされました。
昔に富士見ファンタジア文庫で出版されたものに書き下ろしを加えたものです。
なんと言いますか、オーフェンの文体に慣れ親しんでいたから、最初はこの独特の空気感に戸惑いました。
例えるなら、夜が明けたばかりの静かでひんやりとした空気。
童歌のように繰り返すリズムと詞が生み出す不思議なテンポ。
ストーリーは鬼を狩る男と鬼の童女が旅をするお話なのですが、夢うつつをゆらゆらするかの如き描写の数々がなんとも不可思議。
炎が揺れて、闇がくるりくるりと回る。和風の世界観のようであり、仏教のエッセンスが混ざっているのかなと思ったあたりで西洋風の建物が登場してしまう。このセンス。
とにかく感想が書きにくい。
洋館の扉を椅子で破壊するあたりでようやくこれを書いているのが秋田先生だと納得出来たくらいです。
でも、この乾いて突き放していて寄り添うようで詩的で、だけどどうしようもなく人間の情やおろかさやあたたかさや確かに存在する慈しみ、それらすべてひっくるめて人間がいとおしいと歌っているこの文章がーー私は、たまらなく好きです。