猫のひとりごと


 竜は氷の国の夢を見る3[話]


2024.4.8(Mon) 06:00

 2.

 極寒の地を彷徨うキツネ。
 彼は運良く小さな洞穴を見つけ、吹雪から逃げるように奥へと入り込んだ。
 ―――寒い。
 いくら自前のコートがあろうとも、寒いものは寒い。
 雪国のキツネたちはなんと逞しく生きているのだろうか。

 ウィルは変わり果てた自身の右手―――いや、前足を見つめた。
 父王が亡くなった日、あの場に居たのはウィルとトムの2人だけだ。ウィルをキツネに変えたのは、トム以外に考えられなかった。
 トム、なぜ。何か理由があるのか。
 それとも僕は、実は弟から恨まれていた?
 いくら思考を巡らせても分かるはずはなく、真実は本人に聞く他ない。だが今は、追っ手を振り切らなければならない。王城には近づけない。
 落ち着いたらなんとかしてトムと会って話そう。
 キツネのままでは話せないが、トムに会えば彼はこの魔術を解いてくれるかもしれない。

 ウィルが剣術の才に恵まれたのと同様に、第二王子のトムもまた、とある才に恵まれていた。それは、魔術。

 ウィルとは2つ違いで、彼は今年15になる。
 それほど歳は離れていないのだが、剣術の訓練と魔術の訓練とで兄弟は別々の時間を過ごすことが多かった。そのため、兄弟仲は悪くはないものの、ウィルには弟の考えていることがあまりわからなかった。多くの魔術師がそうであるように、彼も例に漏れず寡黙な性格だったから。


 ウィルは両の瞼の重みに気がついて、身体をくるりと丸める。尻尾の先が鼻頭に当たって心地がいい。
 だが、まだ眠る訳にはいかない。もう少し状況を整理しよう。

 赤い血。赤いワイン。割れたグラス。
 そして横たわる父王。
 ほんの先ほどの出来事なのだ。父王の最期の姿が脳裏にべったり焼き付いて離れない。
 あぁ、もう少し考えたいのに――――ウィルの気持ちとは裏腹に、思考は急激に暗闇に落ちていく――――。




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