猫のひとりごと


 竜は氷の国の夢を見る2[話]


2024.4.7(Sun) 21:30

 1.


ウィリアムは剣術が得意だった。
 幼い頃よりフェルディナンド兵士長にその才を見出された彼は、苦手な魔術に時間を割くより剣術の訓練をしたほうが今後のためになると諭され、17歳になるその日まで剣術の訓練に明け暮れていた。

 そしてその腕前は師であるフェルディナンド兵士長との模擬戦でも時折勝利するほど。


 だが、王宮魔術師団はそれが面白くなかった。

 この国は氷で閉ざされているため外からの侵略はほぼ無い。生活を脅かす凄まじい吹雪が防壁となり守ってくれる。そのため兵士団の仕事といえば専ら国内でのいざこざ処理に尽きる。ならず者が暴れたときの抑止のためある程度の実力は必要だが、戦争で活躍するほど強くある必要はない。

 一方、魔術師団は人々の生活の生命線を担っている。国内のそこここに点在する暖房魔具。その魔具は魔術師団が供給する魔力で稼働しており、一定範囲に熱を発生させる。強力な暖房がなければ屋外はあっという間に雪で埋まり、人々は家から出られなくなる。そして薪が尽きれば家ごと凍る。

 それなのに。次期国王が剣術に長けているというだけで、なんとなく兵士団の鼻が高く不遜に見える。実際にはそんなことはなく兵士らは魔術師らに尊敬の念を抱いていたのだが、彼らの心の内を知るすべは無い。そんな気がすると思えばもはやそうとしか見えなかった。

 幸い、今までの国王は剣術も魔術もそこそこの腕前で、怖ろしいほどの鬼才に恵まれた者はいなかった。となると、自然と生活の生命線である魔術師団の地位が称賛されてきたわけだが、ウィリアムが王になったら兵士団の者を重用し始める可能性も出てくる……魔術師らにはそんな一抹の不安があり、そしてそれは到底許容できないことだった。彼らは、長年の人々の称賛によって異常なほど魔術師としての「誇り」が育ちすぎていた訳だ。

 魔術師らは沸々とした物を心に秘めていたし、どうにかこうにか最悪の未来を回避したいと願っていた。




 ――――今回の事件の要因が何かと尋ねられたら、おそらくこんな感じになるだろう。

 要するに、魔術師らには外部からの敵に付け込まれるのに十分な理由があったということである。















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