短刀組の朝は早い。
それは夜に出された遠征組の衣服の洗濯だったり大所帯の朝食の準備であったり兎に角慌ただしい。
「ん、ありがとう、まい。」
「いーえ。」
何よりまずやる事は短刀組達の見出しなみを整えるそれだ。
膝の上でまだ夢現な小夜君の髪をすいて纏めてあげれば、ぎゅう。と胸の辺りに抱きつかれてたまらない気持ちになる。
「あ、ずるいですー…。」
「次は虎君だから、もうちょっと待ってね。」
「えへへ、やったぁ。」
「その次は僕だよ!今日ついんてーるってゆうのやって?」
すり、と腕に頬を寄せてくる五虎退君や乱藤史郎君は最早性別を超えた可愛さで顔がにやける。
傍からみたら危険かもしれないが周りが周りなので私はまだ序の口というか、この子達は天使なので何も問題ない。
さて、全員分を整えたら各自分かれてお勤めの始まりである。
「はー…寒いねー。」
「暦じゃ春だがなぁ。風邪引くなよ?」
相変わらずの頼れる兄貴っぷりを発揮してくれる薬研君は本当にかっこいい。
以前それを口にしてみれば中身は合格か…後は外見だな、と少し膨れてしまってそれがまた可愛かった。
「あ、」
「うわ、ごめ、ニヤニヤしてた?」
「それは可愛いからいいんだよ。あれ櫻子さんじゃね?」
今さらりととんでもねぇ事言われた…!
些か混乱しつつ目を凝らせば離れ、もとい、介護組(別名レア組じじい組)の居住区の部屋から出てくる櫻子ちゃんを見つけた。
半開きになった障子の隙間からは、あれは三日月さんだろう。
てゆーかあの部屋は三日月さんの部屋だ。
櫻子ちゃんの顔は此方からは分からないが三日月さんの顔はもう名残惜しそうなそれで、ほんの少しの倦怠感が見て取れ、あ、これあかんやつや!!
しかも櫻子ちゃんの部屋に続く角になんかふさふさした髪が見える!
あれは小さいけど小さくない寧ろ大きい狐さんだ!
「まい、見つかる前に行くぞ。」
「そうだね…。」
とりあえず頑張れ櫻子ちゃん、と心の中で合掌しておいた。
さて、気持ちを切り替え下拵えをあらかた終え、他の工程を薬研君に頼みつつ私は畑へ向かう。
「こんなもんでいっか?」
「野菜…たくさん。」
収穫係である厚君と小夜君のお手伝いだ。
いくら野菜といえど一日分を考えるとなかなかの量である。
「うん、ありがとう!」
「今日は大根が多めに取れたぜ!」
「お味噌汁、飲みたい…。」
はしゃぐ二人の天使(小夜君はぱっと見は分からないが頬が少し赤いので分かる)の頭を撫で、薬研君の下へ戻る。
すると道中兄さん達にあげる、とほうれん草の入った籠を大事に持ち歩いていた小夜君があ、と声を上げた。
なんだろう?そう思い厚君と小夜君の視線の先を見れば。
筋肉組、基、戦闘中煩い組(本当に煩い)の山伏さんタヌキさん蜻蛉さんが岩融さんの部屋に入るところ、いやあれは押し入るところか。
数秒後にはてめぇ時間過ぎてんだよ!とか今日は私とですから優しくしますね、とかいや今宵は拙僧が誉を!とか教育上大変宜しくない声がぎゃあぎゃあ聞こえてきた。
「朝から元気だなぁ。」
「…ん。」
君達が純粋で本当に良かった…!!
あぁもう櫻子ちゃんといいあの爛れ組はどうにかしなければ!!
いっそ精進料理にでもしてやれば爛れるもんも爛れねぇかな、と薬研君が呟いていた事は記憶に新しいが、そうではなくとも目に毒なものはものである。
「おはよう、まいちゃん。」
「あ、おはよー。」
大太刀である太郎さんと打刀である長谷川さんを左右に控えさせながら庭にいたのは歌子ちゃんだ。
二人の腕の中には切られたばかりの花々があり生花用だろう。
…なんというか、なんというか。
「どうかした?」
「ううん!あ、ご飯もう少しかかるんだ。」
「何時もありがとう。今度みんなにお菓子を買って来ようかしら。」
うふふふ、と優雅に微笑む彼女だが控えている彼等は微動だにしない。
「さぁ、早く生けてしまわないと。じゃあまた後で。」
「畏まりました。」
「…失礼する。」
そうして優雅というか物々しく去った三人だが、なんという威圧感だろう。
「おっはよー!まいちゃん今日もナイス美脚ぅぅぅ!」
「…なんか今凄く安心したわ。」
「そう言ってくれると助かるよ、おはよう。」
ずさぁぁぁ!とスライディングで私の腰に突撃してきたのはゆきちゃん、それを手馴れた様に引きはがしたキャンドルカッターピカry光忠さんは本当にリア充である。
先程の組合もリア充だがまたベクトルが違う気がする。
「えへへ!お手伝いに来たよ!」
「ま、僕等が当番だしね。」
「じゃあ盛り付けお願いしていいかな?私これからお寝坊さん組起こしに行くから。」
「なら私も、」
「ゆきは襲おうとするからダメだ。ほら行くぞ。」
にべもないが的確な光忠さんの指摘にゆきちゃんは不貞腐れながらもその手を引かれれ、照れくさそうに微笑む。
他所でやれ。
「…さて、とーやちゃーん?」
声を掛けて障子を開ける。
「ん、おっはよー。」
「はよー。」
「おはよーございまーす。」
「俺なんか…。」
加州君、塔矢ちゃん、蛍君、山姥君の見事なお膝抱っこ組が出来ていた。
まぁ山姥君はうつ伏せで蛍君の膝枕状態だが。
「えへへ、主の髪はさらさらだなぁ。」
「ん、清光の方が綺麗だよ。後でとかさせてね?」
「…うん!嬉しいなぁっ!」
「もう山姥さんしっかりー。」
「うう…。」
何だろうこのカウンセラー的な雰囲気は何だろう(二回目)。
まぁ今日は問題なく平和なので良かった。
酷い時は本当に酷く、短刀を近寄らせたくない程なので誠にラッキーである。
とりあえず朝食だと告げ、あすかちゃんの所へ向かう。
「…んー。」
「おねーさん!朝ですよー!」
「主様!この鳴狐が朝をお知らせしますぞ!」
「…起きない。」
あすかちゃんは朝に弱いので毎朝今剣君と鳴狐君が頑張って起こしてくれる。
彼女的に狐君の肉球で頬をふにふにされるのが至福らしい。
「うー、おはよー。あ、まいちゃんもおはよー。」
「おねーさん起きたー!」
「おはようございますー!」
「…おはよう、あすか。」
サンクチュアリは此処にもあった、というかこの溢れるマイナスイオン感は凄いと思う。
まぁ短刀組の方が可愛いがな!!
「まいちゃん、口に出てるよ?」
「わぁぁ!ごめん!」
さて、何はともあれこれで全員起きただろうし朝食にしよう。
今日もみんなが元気でありますように。