目が覚めた時、僕はいつも独りだ。
冷たくなったベッド。
独りでは大きすぎる。
彼は何処に行ったのだろうか。
いつも朝になると必ず居なくなっている。
ベッドから脚を下ろすと、直に伝わるフローディングの冷たさと、無機質独特の死んだ生き物の様な感覚。
いつも独りでこの感覚を味わう虚しさ。
どうして彼は帰ってしまったのだろうか。
彼の会社なら泊まり込みと嘘を吐いてもバレない位忙しいじゃないか。
たまには僕が起きた時に傍にいてくれよ。
こんな虚しい朝なんか堪えれない。
朝くらい一緒に居たいよ…。
リビングの机に置かれた手紙。
決まった様な内容のモノでも、僕にとったらとても大切な物だ。
あまりにも少なすぎる思い出の中で唯一僕が微笑む事が出来るのだ。
『また会社で』
たったこれだけ。
これだけの手紙。…いや。手紙とも言えないかもしれない短文。
僕等は普通の恋人にはなれない。
だからこそ、相手を大切に思うあまりに切り出せないのだ。
別れる事も共に暮らす事も。互いに黙ったまま。
一緒に居られるあの瞬間だけで充分。
…そう思っていたのに。
いつからか女の元へ帰っていく彼の後ろ姿に手を伸ばしてしまう日が増えてしまった。
最初から諦めていたのに。
所詮男は女を求めるのだから、いずれは自分の元から去る事くらい分かっていた。
そのはずなのに。
なんで止められないのだろうか。
僕にとって最後の恋になるからだろうか。
この人で最後にしよう。
そう決めてからはもう誰とも遊びで寝なくなった。
彼と過ごす為に時間を割く事くらいなんでもなかった。彼の為と思ったらなんでも出来る。
周りは僕らしくないと言ったが、多分これが僕なのだ。
大切な人の為ならなんだってできる。
それで彼が喜んでくれるなら。
朝食もそこそこで僕は家を出た。
今から向かう先に彼が待っていてくれる事を願いながら。