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更新履歴

03.11 発表(現パ)鉢雷

03.04 いきおくれ 文伊

03.03 雛祭り   鉢雷

03.02 桃    こへ仙 

03.01 なごり雪  文伊



02.27 となりの春 鉢雷

02.11 またくる春 文伊
「空調(現パロ)」
「薫風」
「熱夜」文伊3作、前ブログから移設

09.02.11 ブログ開設

発表 *現代パロ

※三郎が生まれながらに雷蔵とそっくり。

※双子のような、従兄弟のような…

という設定です。

***




『発表』





嫌悪、絶望、喪失。大人へと落下する君。

開花発表。

僕らの青い春なんて、こんなに簡単に幕が開くのだ。


***


走って走って息が切れて、やっと姿を見つけた時はなかなか声が出なかった。

「三郎…こんなとこに…いた…」

ふきでる汗をぬぐう。
探していた従兄弟は草の上に寝そべり、のんきに目を閉じている。

「三郎、聞こえてるんだろう?…何をしてるんだよ」

「死体ごっこ」

「そうじゃなくて…。試験の結果見たよ。驚いた…」

何年か前から、同じ私立中学に行くことを約束していた。

決してレベルは低くないけれど、三郎ならば確実、僕はギリギリ受かるだろうと。

けれど結果は僕が合格で、三郎が落第。


三郎は答案を白紙で出したのだ。




「なんで白紙なんか」

「いいんだ。俺は、雷蔵と同じ学校には行かない」

衝撃的な言葉だった。

三郎は目も開けてくれない。

「なんで……」

「そう決めたんだ」

「なんで。分からないよ」

三郎はもし自分が受かっても、僕が落ちたら合格を蹴って僕と一緒に公立中に通うと言っていた。

そんなことしなくていい、と言いながら、僕も心のどこかでそれを望んでいた。

当たり前のようにいつまでも三郎が側に居ると思っていたのだ。



「自分が嫌なんだ、我慢ができないんだよ。だからお前の隣にいられない」


いつまでも三郎に甘えていられると思っていた。

そして、三郎も僕を頼ってくれているものだと、当たり前のように思っていたのに。





「これは本当に俺の体なのか、俺のものなんてどこにあるんだ。我慢ならない、ぶっ殺してやりたい」


三郎は淡々と言う。

きっとその方が、僕も、三郎自身も傷つくことを知っているからだ。

僕らは自分を傷つけることと、相手を傷つけることの区別すらついていないのだ。

そう気付いた時、三郎が僕の隣に居たくないと言った気持ちが理解できた。



「…三郎」

そっと掴んだ手は冷たい。




死体ごっこは小さい頃からの僕らの遊びだ。

まず僕が目を閉じていると、

『これは雷蔵の手』、三郎がこう言葉にしながら、言った部分に触れていく。




『これは雷蔵の腕。

これは雷蔵の肩。

これは雷蔵の首。

これは雷蔵の顔。

これは雷蔵のまぶた…

…雷蔵、目を開けて』


そうして目を開けると、僕とおんなじ顔をした三郎が笑っている。




「…これは三郎の手」


これは三郎の腕。

これは三郎の肩。

これは三郎の首。

これは三郎の顔。

これは三郎のまぶた。

「……三郎、目を開けて」




そっと三郎の目が開く。


「雷蔵…なんで泣いているの」

「三郎が泣いているからだよ…、三郎が…」

自分を殺したいなんて言うからだよ。




僕らは周りが驚くほどにそっくりに生まれてきて、そして一緒に育った。

器が同じでも中身は違うと分かっているはずだった。

でも君は本当の自分になるために、今の自分を殺すと言う。


僕はそれが悲しくて、それを止めたいのに、止める言葉が見つからない。

僕が止めても、三郎はそうするのだろうと、なぜか確信があった。

悲しくて悲しくて涙が止まらない。



「雷蔵…泣かないで…ごめん…」





(同じ姿で生まれてこれたのに、 やっぱり僕らは別の人間になりたがるのだ。)






***


僕は草の上に寝そべっていた。

気持ちのいい陽気の日だ。


「やっと見つけた。雷蔵、寝てるの?」

「ううん、」

あれからやはり僕らは違う中学に進んだ。

だけどすぐに三郎は、大川高校受験を決めた。

そして三年がたった。


「雷蔵、目を開けて…。俺、受かった」

僕は目をそっと開ける。

僕ととてもよく似ているけれど、ちがう顔、

僕の大好きな三郎の笑顔があった。


「春から二人で一緒に通おう」

「うん」


もうとっくの昔に僕らは死体ごっこから卒業していた。







***

365日のお題『発表』

配布元
hp.kutikomi.net

なんか趣味に走ってます;
従兄弟というより双子?
鉢雷じゃなくてもいい話になってしまった。


どちらかが自意識をもった時から、きっとそれまでのような関係ではいられなくなる。
今回は三郎が先に自意識をもちました。
三郎が自分と雷蔵は違う人間なのだと自覚したきっかけは、もちろん恋です。

自分と他人が居ないと恋は始まらない。

そこが鉢雷の醍醐味ですね…とここで主張してみるw

いきおくれ


いきおくれ



***


右肩は…動かない。あばらも何本かは折れているだろう。

体中の痛みと目の霞み。

左足の感覚が無いのが気になるが、まさか足ごと無くなってしまったなんてことはないだろう。

恐ろしくて見れたものじゃないが、体が起こせず見ることは叶わない。


「ここはどこだ」


寝かせられているのは布団の上で、体は手当も受けている。

敵に捕まって拷問を受けた訳ではない。

第一、任務中にそんなことになったら自分は今おめおめと生きてはいないだろう。

任務、敵…自分の記憶がひどくあやふやな事に気付く。




自分について基本的なことは覚えている。

正統な教育を受けて城抱えの忍者になったこと、大きな戦をいくつか乗り越えたこと、

しかし最近のことを思い出そうとすると、全体にモヤがかかって何も分からない。




…分からないものは仕方がない。


なぜか焦る気持ちは浮いてこない。ぼんやりと霞む目で、障子窓を見つけた。

時刻は昼過ぎごろだろうか。

何か、庭仕事をしているような人物が目に入った。

髪は長く、背に垂れるままにした中ほどをゆるく結んでいる。白い衣服、医者だろうか。
ここからでは遠い上、後ろ姿では何も分からない。

そのうちに眠気が襲ってきて、文次郎は目を閉じた。



***



再び目覚めた時は真夜中だった。

頭が少しはっきりし、体も動きそうだ。

静かに布団を抜け出す。左足もちゃんとついている。

鈍い痛みが走るが無視をし、ここがどこなのかを見回す。




明るい月夜だった。庭にまた人影がある。

昼にみかけた人物だ、月を見ているのだろうか。

文次郎はそっと庭に降り立った。



裸足の足に砂利の感触がある。

青白く照らす月の光の下、あたりは青草の繁る薬草園だった。




意識はぼんやりと霞んでいる。

ふわふわと所在がなく、痛みすらどこか遠いところにある。

文次郎は警戒もせず白衣の人影に近づいた。

誰かも分からず、ただその後ろ姿にひどく懐かしい感情が沸き起こる。

何故なのかを考える前に、その背中を抱きしめていた。





「文次郎…また文がきたよ。また一人逝ってしまった」



これで、僕と君ふたりだけになってしまった。



ああそうだ。だから、俺はお前に…会いに…来たんだ…。







その瞬間何もかもを思い出した。

記憶の川を遡っていく。

離別、戦い、孤独、級友達の死…、

あれから 何年も 何年もたってしまった。




「伊作…」



感情がせき止めていた杭を溢れるように流れこんで、ただ名前を呼んだ。

腕を抱きかえす、伊作の力は強い。

その体が確かにそこにあるのを感じる。

すると知らぬまに蓄積されていた、何年もの戦いの疲れが、
重いけだるさとなって文次郎の体を襲った。











***

3月4日のお題、いきおくれを

「逝きおくれ」と解釈しました。


配布元
hp.kutikomi.net

追記にあとがき→
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雛祭り

雛祭り


***


ひときわ大きな蛤を選んで、蝶つがいでぽきりと折り返す。二つに分かれた貝殻を、一つずつ手に取り、まずは丹念に磨く。

「こうして雛人形なんて作るのは、何年ぶりだろう」

「私は初めてだ。不器用だから、上手く作れるかな」

「大丈夫、私が教える」

表側には薄く糊を塗り和紙を貼る。
乾いた頃合いに、古着のきれを重ねて貼付ける。

三郎と向かい合い、見様見真似で作業をする雷蔵の雛も、ちゃんと形になっていった。

「やってみれば楽しいものだね」

「ああ、心配するほど不器用でもないさ」

雷蔵の場合、不器用というよりおおざっぱなんだ。

皮肉を付け足されるが、反論もそこそこに、雷蔵は手の中の愛らしさに笑みを零す。



雷蔵がお雛様、三郎がお内裏様。


顔を描けば一層愛らしい。


「そうだ、私のものが出来たら三郎、お前に上げよう」

「だが、男に贈るというのも不思議だな」


「それなら…いつか生まれるお前の娘に」


光沢のある裏側には、筆で薄桃色の顔料を塗っていく。蝶つがいの裏まで丁寧に。


「…では私のものも、お前の娘に」


姫の口に紅をひくのは、三郎の役目だ。
雷蔵から手渡された雛に、丁寧に紅をひいていく。
自分の手製の雛に息を止めて紅をひく三郎を見つめて、雷蔵の呼吸も止まる。

「…できた」

ほうと息をつき、微笑みあう。




雷蔵の手にはお内裏様、三郎の手にはお雛様。


「雷蔵、毎年一つずつ作るのはどうだい」

「お互いの娘にかい?」

「そうだ、だんだんと豪華にして」

「じゃあ私たちの娘は幸せ者だね」

手の中にすっぽりと収まる雛は軽く、布の風合いも柔らかい。

ひかれた紅は今だけ鮮明だが、時がたてば馴染んでいくだろう。

「…そうだな、幸せ者だ」

出来たての雛はしばらくの間、二人仲良く並んで床の間に飾られていた。







***

三郎の片思いかもしれない。

音楽家もそうですが、職人というもの全般に男が多いですよね。
人形をつくる男性、というか人形をつくる三郎を想像するとときめきます。

雛の唇に紅をひく三郎。
女装の授業の時など頼まれれば、きっと雷蔵の唇にも紅をひきます。

配布元
hp.kutikomi.net

桃 *こへ仙




***


朝から気になってはいたのだ。

任務自体はなんてことはない、ただお使いに護衛が付加したようなものであった。それも自分達は囮で、今ごろ文次郎と長次が本物を届けた頃。

だから久しぶりに見る市街を見渡す余裕があった。
どちらかというと、自分は楽しんでいた。
勿論、素ぶりや口に出したりはせんが。

朝から気になってはいた。やたらと干菓子や色とりどりの売り物が目立つ出店。
手を繋ぎ、かけてゆく子どもら。

そうか明日は桃の節句なのだ。

「仙ちゃん、仙蔵!!」

「小平太」

小平太からどうやら任務が終了したらしいという報告を聞く。
そのまま現地解散、学園へ帰還、とのこと。

「ならば急いで戻ろう」

「それより」

土産を買って行こう。

町に来れることもめったにない。
小平太は、この祭の気分を学園で待つ者たちへ持って帰ろうと言う。

それもいいかもしれない。
町は確かに、持って帰って見せてやりたいと思う程の、心やわらぐ華やかさに満ちている。
しかし、はたと気付く。

「私は今日、あまり持ち合わせがない」

「あ、私もだ」

「残念だが、やはり帰ろう」

しゅんとうなだれる小平太を促し、町を後にしようとする。
後ろ髪引かれる思いとはこの事で、背中へ垂らした自らの一房の髪が、
『残念だ』
と嘆いているようだ。

「伊作に、見せてやりたかったな」

「…。あ、そうだ」

何を思ったのか急に駆け出した小平太は、周りの視線をうかがい、ある民家の塀に上った。

「小平太!!何を」

それ程の時間はかからなかった。
再び地面に降り立ったその手に握られていたのは、一振りの桃の枝。

「これを土産にしよう」

「…手荒だな」

しかめた眉もその枝を見ればすぐにもとに戻る。
蕾もふっくらと柔らかく、一つ咲いた早咲きの花はほのかな桃色。

「仙蔵が持って」
「…」
「ほら、似合う」

これならばこの空気を香りごと持ち帰れるだろう。
蕾が全て開くまで、幾日かはもつだろう。

「…まぁ、お前にしては風流な土産だな」

視界に咲く桃の花の向こう、嬉しそうに笑う小平太が映り、目を細めた。








***
365日のお題、3月2日は桃です。
どのカプでも良かったのですが、桃の花言葉が
『天下無敵』
と素晴らしかったので、無敵コンビのこへ仙で。

いつも仙蔵より最初の一歩が先に出る小平太。


↓配布元
hp.kutikomi.net
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