※三郎が生まれながらに雷蔵とそっくり。
※双子のような、従兄弟のような…
という設定です。
***
『発表』
嫌悪、絶望、喪失。大人へと落下する君。
開花発表。
僕らの青い春なんて、こんなに簡単に幕が開くのだ。
***
走って走って息が切れて、やっと姿を見つけた時はなかなか声が出なかった。
「三郎…こんなとこに…いた…」
ふきでる汗をぬぐう。
探していた従兄弟は草の上に寝そべり、のんきに目を閉じている。
「三郎、聞こえてるんだろう?…何をしてるんだよ」
「死体ごっこ」
「そうじゃなくて…。試験の結果見たよ。驚いた…」
何年か前から、同じ私立中学に行くことを約束していた。
決してレベルは低くないけれど、三郎ならば確実、僕はギリギリ受かるだろうと。
けれど結果は僕が合格で、三郎が落第。
三郎は答案を白紙で出したのだ。
「なんで白紙なんか」
「いいんだ。俺は、雷蔵と同じ学校には行かない」
衝撃的な言葉だった。
三郎は目も開けてくれない。
「なんで……」
「そう決めたんだ」
「なんで。分からないよ」
三郎はもし自分が受かっても、僕が落ちたら合格を蹴って僕と一緒に公立中に通うと言っていた。
そんなことしなくていい、と言いながら、僕も心のどこかでそれを望んでいた。
当たり前のようにいつまでも三郎が側に居ると思っていたのだ。
「自分が嫌なんだ、我慢ができないんだよ。だからお前の隣にいられない」
いつまでも三郎に甘えていられると思っていた。
そして、三郎も僕を頼ってくれているものだと、当たり前のように思っていたのに。
「これは本当に俺の体なのか、俺のものなんてどこにあるんだ。我慢ならない、ぶっ殺してやりたい」
三郎は淡々と言う。
きっとその方が、僕も、三郎自身も傷つくことを知っているからだ。
僕らは自分を傷つけることと、相手を傷つけることの区別すらついていないのだ。
そう気付いた時、三郎が僕の隣に居たくないと言った気持ちが理解できた。
「…三郎」
そっと掴んだ手は冷たい。
死体ごっこは小さい頃からの僕らの遊びだ。
まず僕が目を閉じていると、
『これは雷蔵の手』、三郎がこう言葉にしながら、言った部分に触れていく。
『これは雷蔵の腕。
これは雷蔵の肩。
これは雷蔵の首。
これは雷蔵の顔。
これは雷蔵のまぶた…
…雷蔵、目を開けて』
そうして目を開けると、僕とおんなじ顔をした三郎が笑っている。
「…これは三郎の手」
これは三郎の腕。
これは三郎の肩。
これは三郎の首。
これは三郎の顔。
これは三郎のまぶた。
「……三郎、目を開けて」
そっと三郎の目が開く。
「雷蔵…なんで泣いているの」
「三郎が泣いているからだよ…、三郎が…」
自分を殺したいなんて言うからだよ。
僕らは周りが驚くほどにそっくりに生まれてきて、そして一緒に育った。
器が同じでも中身は違うと分かっているはずだった。
でも君は本当の自分になるために、今の自分を殺すと言う。
僕はそれが悲しくて、それを止めたいのに、止める言葉が見つからない。
僕が止めても、三郎はそうするのだろうと、なぜか確信があった。
悲しくて悲しくて涙が止まらない。
「雷蔵…泣かないで…ごめん…」
(同じ姿で生まれてこれたのに、 やっぱり僕らは別の人間になりたがるのだ。)
***
僕は草の上に寝そべっていた。
気持ちのいい陽気の日だ。
「やっと見つけた。雷蔵、寝てるの?」
「ううん、」
あれからやはり僕らは違う中学に進んだ。
だけどすぐに三郎は、大川高校受験を決めた。
そして三年がたった。
「雷蔵、目を開けて…。俺、受かった」
僕は目をそっと開ける。
僕ととてもよく似ているけれど、ちがう顔、
僕の大好きな三郎の笑顔があった。
「春から二人で一緒に通おう」
「うん」
もうとっくの昔に僕らは死体ごっこから卒業していた。
***
365日のお題『発表』
配布元
hp.kutikomi.net
なんか趣味に走ってます;
従兄弟というより双子?
鉢雷じゃなくてもいい話になってしまった。
どちらかが自意識をもった時から、きっとそれまでのような関係ではいられなくなる。
今回は三郎が先に自意識をもちました。
三郎が自分と雷蔵は違う人間なのだと自覚したきっかけは、もちろん恋です。
自分と他人が居ないと恋は始まらない。
そこが鉢雷の醍醐味ですね…とここで主張してみるw