《グギャギャッ!グギャギャッ!グキャッ!?》
小鬼ゴブリンたちの攻撃を交わしつつ、一匹づつ確実に倒していくが、何せ数が多い。
「倒せど倒せど数は減らねぇ・・・というか、さっきより数が増えてねぇか?」
残っている小鬼ゴブリンと狼ウェアウルフたちの背後から、一回りデカイ個体が現れた。
「嘘だろ!?ゴブリンキング・・・だと!?」
《グギャッ!ワガシモベタチヨ、ソコノニンゲンヲハヤクコロスノダ!》
「・・・ゴブリンキング・・・納得だ。数百年生きたこいつが統率してるからウェアウルフどももゴブリンに余計な手出しはできないのか」
数百年生きた魔物には希に人語を話すものもいる。
《グギャギャッ!!》
《グルルルルッ!!》
腹を空かしたウェアウルフがゴブリンたちに襲いかからないのもこのゴブリンキングの影響だと納得した。
「チッ!逃げられねぇなら、戦うしかねぇか」
男が剣を構え、ゴブリンキングへと攻撃をしていく。
《グギャギャッ!!オロカナニンゲンメ、キサマヲコロシテオレサマノチカラノカテニシテヤロウ》
男とゴブリンキングは互いに一歩も引かずに戦いを繰り広げていた。男は己の力だけで、ゴブリンキングは自らの肉体と己の配下も使って攻撃をしていた。
(このままでは不味いな・・・)
男の手によって配下の魔物が減りつつも未だに衰えを見せないゴブリンキング。男は疲れとともに焦っていた。
「・・・うぐっ!?がはっ!」
そんな焦りから男は背後から忍びよってきた魔物の存在に気づかなかった。背中に衝撃を受け、地に伏した男にゴブリンキングは止めを差そうと手に持つ棍棒を振り上げた。
(・・・俺の命も・・・ここまでか・・・)
『・・・ファイアボール!!』
薄れていく意識の中、男は突然現れた者によってゴブリンキングが倒されるのを見、気を失った。
「・・・クソッ・・・!!」
ギルドからの依頼で辺境の村付近にやってきた男は、無事に依頼されていた物を確保し、ギルドへ依頼達成の報告をしに向かう途中だった。
なるべく早く帰ろうと近道・・・現地の人も滅多に通らない森の中に入ったのが仇となった。男の目の前には数十匹の小鬼ゴブリンの群れ、そして口からヨダレを垂らし獲物を狩る肉食獣ウェアウルフの群れがいた。
男の実力ではゴブリンやウェアウルフは簡単に討伐できるレベルであった。しかし、それが数十匹の群れとなるとさすがに苦戦を強いられていた。しかも森の中というのが男を疲弊させていた。
「近道しようとしたのが仇となっちまったか・・・しかもゴブリンとウェアウルフがダブルで襲ってくるっつぅのは聞いたこともねぇぞ!」
肉食のウェアウルフ・・・常に飢えているこの獣は、本来であれば一緒にいるゴブリンでさえ補食の対象である。それがゴブリンに見向きもせず、男のみをターゲットにしている・・・異常である。
ウィリストナ王国。農業や畜産などに特化した自然豊かな国である。その辺境の村イースがこの物語の舞台。
辺境の村イースは深い森で囲まれた辺境中の辺境。そこに住む人々は農業や林業などによって生計を立てていた。その深い森に黒い人影が一つ、黒いフードつきのマントのような物に身を包んだ青年がいた。木の皮で編んだカゴを背負っている。
周りをキョロキョロしているのは何かを探しているのだろうか。背中のカゴにはたくさんの植物が入っている。どうやら薬草を摘みに来たようだ。
《グギャグギャグギャァァァ・・・!!》
「・・・ッ!?」
静かな森の中にけたたましい魔物の声が挙がった。魔物の声に混じって金属音も聞こえて来る辺り、魔物と誰かが戦っているのだろう。青年は魔物の声と金属音のする方へ音を立てず、しかも急ぎ足で向かうのだった。