本部ではいちかが鼎と御堂がいないことに気づく。
「室長、きりゅさんとたいちょーは?」
宇崎、どう説明したらいいのか迷い正直に話した。
「――きりゅさんの治療のためにゼノクの病院に行ったの?え…?きりゅさん…そんなにも身体の調子良くなかったんだ…」
「いちか、ゼノクには最高峰の医療チームがいるから心配すんなって。鼎は彼の手術を何度も受けているから…」
いちかはここで初めて、鼎が何度も手術を受けていたと知る。
「火傷の治療もそうだったの…?きりゅさん…本当に大丈夫なんだよね!?」
いちかは思わず宇崎の胸ぐらを掴んで揺さぶっていた。彼女はリアクションがオーバーなのでだいたいこうなる。本人は真面目だが。
「いちか…わかったから手…離せって…。ちょっとぎもぢわるい…」
「室長ごめんなさいーっ!」
そんな司令室に副隊長の仁科が入ってきた。
「あ。ふくたいちょーだ」
いちかはぱああっと明るくなる。
「仁科、ちょっと任せて貰ってもいいかな?和希は今ゼノクにいるからね。鼎と一緒だ。
ゼノク周辺の動向を見たいから、すぐに出撃出来るようにしといて。鼎が言ってた本部に来た匿名メールはゼノクに関する内容だった…」
「了解しました」
宇崎はフランクにいちかに聞く。
「いちか、お前班長候補なんだろ?油なんか売ってないで出撃準備しなさい。もしかしたらゼノクに行くことになるかもしれないからね」
「ラジャー!」
いちかは元気よく司令室を出た。
ゼノクでは鼎と御堂を乗せたヘリが無事、ゼノク隣接の組織直属病院のヘリポートへ到着。
御堂は鼎を気遣った。
「鼎…大丈夫か?」
「ヘリは滅多に乗らないから…」
ヘリポートではゼノク医療チームの嵯峨野が出迎える。
「本部の紀柳院司令補佐と御堂隊長ですね。こちらへ」
嵯峨野は2人を院内に案内した。
「見たところ…彼女に緊急オペをする必要はなさそうですが、加賀屋敷次第なので。…あ、カルテは既に見ています」
「お前ら『ゼノク医療チーム』って…一体何者なんだよ」
御堂、かなり疑ってる。
「4人の凄腕ドクターとナースで構成されてる謎の集団…とよく言われてますが」
4人!?
「1人は女性です。姫島とは会ったことあるはずでは?」
「姫島!?あいつは憐鶴(れんかく)の世話役じゃなかったのか!?」
鼎、思わず反応する。
「姫島の本職は看護師です」
「…憐鶴はなぜ黙っていたんだ…」
憐鶴は私達に言う必要性がなかったからかもしれない。そう、判断したのだろう。
一方のハヤウエ。都内某所で他のメンバーを召集し、ゼノク襲撃を企てていた。
「いいかー、目的は本館や病院じゃない。研究施設だけ。研究施設の『Z-b2』に辿り着くことが我々の悲願である。
ゼノク隊員が出てくるとは思うが、気にせず突破しろ。構造上、本館のある通路を通過しないと研究施設には行けないようになっている。わかったー?」
「リーダー、了解です」
「ハヤウエ様、ついていきます!」
リーダーのハヤウエと元看護師のレオナ以外は寄せ集めという構成。
いくら寄せ集めとはいえ、前回の本部襲撃よりはメンバーの戦闘力はいくらか高い。
今回はゼノク襲撃という、厄介な計画なのでそうなった。セキュリティが本部よりも堅牢なのも関係している。
本部のセキュリティは襲撃以降に改良されたが。
「リーダー、研究施設には何があるんでしょうか。その『Z-b2』というのは部屋の名前?」
「行けばわかるよ。何がなんでも辿り着いてみせる」
ゼノク襲撃は数日後、決行される。
ゼノク・地下本拠地。
憐鶴は何かしら準備している。
「れ、憐鶴さんそこ…そうなってたの?」
苗代と赤羽は3つ目の隠し通路を知らなかったらしい。この通路は執行人用の武器庫になっている。
「さらに三ノ宮に分析して貰いました。これは…ゼノクへの宣戦布告です」
「宣戦布告ぅ!?」
苗代と赤羽は大袈裟。
「おそらくゼノク襲撃をしてくるのは時間の問題。西澤室長経由でゼノク隊員にも伝えました。
入居者の避難は既に始まっていますから」
「東館自体、シェルターになってるんでしたっけ?」
苗代が気になることを聞いた。
「東館は入居者がよくいるから、それも兼ねてるらしいんですよ」
「病院も要塞みたいになっていますよね」
「ゼノク全体が要塞みたいなものですからね」
そのゼルフェノアの本丸・ゼノクに宣戦布告とは。
やがてそのXデーがやってくる。
ハヤウエはメンバーに指示。
「まずは本館を襲撃だ。レオナは病院へ向かえ。加賀屋敷を探すんだ」
「了解」
「加賀屋敷は見つけてもすぐには始末するなよ」
「わかってますって」
メンバー達はゼノクへ襲撃を開始。
ゼノク館内ではアラートが鳴る。ゼノク隊員出撃。二階堂は率先して避難誘導している。
「シェルターへ逃げて下さい!早く!」
二階堂は烏丸と七美を連れて東館へ。烏丸は戸惑った。
「なんで東館なんですか!?」
「東館自体、シェルターなんですよ。職員でも知らない人はいたはずです。東館には既に眞(まこと)さんがいますから」
「二階堂さん…戦うんですか!?」
七美は気になっている様子。
「私は救助専門に転向しましたが、時として戦いますよ。この義手や義足は戦闘兼用ですが…相手が何者かによるところはありますね」
敵は怪人なのか、人間なのか。それとも両方なのか。
「システム起動しているか?」
蔦沼は西澤に聞いた。
「シールドシステムや防弾シャッターは無事に起動しています。入居者・職員の避難も順調です」
「敵の情報は?」
「…人間かと」
「人間!?」
蔦沼、少し慌てる。
「この映像を見て下さい。こいつらは数ヶ月前に本部を襲撃した、武装集団ではないでしょうか」
「武装集団は捕まったはずでしょ!?」
「…リーダーがいますよ。彼の目的は一体なんなのか……」
「シールドに阻まれた!破壊しないと入れない!」
メンバーの声が次々聞こえる。
「レオナ、病院にはまだ行くな。シールドシステムが起動している。病院も防弾シャッターで閉じられている可能性が高い」
「あの病院…要塞だもんな〜」
ゼノク隣接の病院。鼎は激しい発作が出たようだ。
「鼎!しっかりしろ!!返事しろ!!」
「…和希……早くあいつを呼んでくれ…。加賀屋敷を…。重い発作が出たようだ…」
鼎はやがて気を失った。御堂はゼノク医療チームに彼女を託すことに。
鼎はストレッチャーに乗せられ、運ばれた。
命に関わる重い発作が出た以上、加賀屋敷はどうするのか。
医療チームは慌ただしく動いている。姫島は御堂に説明。
「御堂さん、紀柳院さんは緊急オペをすることになりました。加賀屋敷の判断で」
「緊急…!?」
「落ち着いて下さい。私達も最善を尽くしますから。あとは紀柳院さんにかかっています」
「鼎…」
御堂は祈るようにして待合室の椅子に座った。緊急手術って…マジか…。
御堂は外で何やら物音がしていることに気づいた。窓から覗くとそこにはどこかで見たことあるような集団が。
ヴェルダの夜明け…?なんであいつらが。…ハヤウエか!?
御堂に戦慄が走る。ハヤウエの目的はなんなんだ!?
病院じゃないみたいだが、鼎は今現在、手術を受けている。万が一、病院に奴らが来たらと思うと…。
「シールド破れません!!」
メンバーが叫ぶ。
「第1関門突破出来なきゃ目的果たせないのにな。…仕方ない…」
ハヤウエは怪人態へと変貌。シールドにヒビをミシミシ入れる。
「ゼノク隊員はどうするのかな?シールドそろそろ破れるよ?」
ゼノク隊員達はハヤウエの力に圧倒されていた。
「なんなんだよあいつは!?」
上総(かずさ)、太刀打ち出来ない。二階堂はまだ来ないのかよ!!
本部ではゼノクへ応援を出していた。
「御堂は病院にいるから戦える状況じゃない。鼎は手術中だという情報だ。
行けるのはお前らだけなんだよ!ハヤウエは怪人だと判明した。ハヤウエを一刻も早く止めろ!!」
宇崎は移動中の本部隊員に命令。
「ゼノク隊員で持つの…?シールドシステムや防弾シャッター起動してるけど、ハヤウエが怪人となると話が変わってくるよね?」
いちかは意外と冷静。
「御堂さんと鼎さんのいる病院は死守しなくてはなりません。現在進行中で鼎さんは手術中って…かなり不味くないですかね…」
あの桐谷も緊張してる。
「ゼノク病院は要塞みたいだって聞いたけど、限界があるはず。防弾シャッター破られたらパーなんだよ!?まだ着かないのーっ!?」
いちかは早く加勢したくてうずうずしてる。たいちょーは気が気じゃないはずだ。きりゅさんが手術受けているんだもん。
ハヤウエはシールドシステムを無理やり破壊。シールドの一部をぶち破った。
「シールドシステム一部損壊!」
西澤が破壊された箇所を見る。ハヤウエは怪人だったのか!?
ハヤウエは本館に入ると人間態へと戻る。本館は不気味に静まり返っていた。
隊員はどこにいる?いや…それよりも研究施設だ。
「レオナ」
「なんでしょうか」
「病院へ行ってくれ」
「了解しました」
「加賀屋敷を始末しろ。裏切り者には制裁を」
「承知しました」
レオナは隣接する病院へ。
御堂は嫌な予感がした。鼎はこの病院の第3手術室にいると姫島から聞いた。
病院は鉄壁の要塞と化しているため、入院患者の避難はしていないような状態だ。
しかし…とんでもない病院だ。マジで要塞だよ。
そんな中、レオナは病院へ侵入を試みる。
防弾シャッター、めちゃくちゃ分厚いし硬い!
本館と病院の境目、連絡通路にある防弾シャッターに四苦八苦するレオナ。
この先に加賀屋敷がいるんだ、諦めるわけには…。
御堂は連絡通路から物音がすることに気づいた。
「おい、そこのお前。病院に何の用だ?」
この声…あの時の……御堂!?なんで御堂がゼノクにいるの!?レオナはパニクった。
レオナは無言。御堂はなんとなく察していた。
数ヶ月前にあった本部襲撃後、鼎からこんなことを聞いたからだ。
『武装集団には元看護師がいる。そいつは私の味方だと言った』と。
「お前、元看護師だろ!?病院に何の用だ!?吐け!!」
防弾シャッター越しの攻防が続く。レオナは御堂の気迫におののいていた。
なんなのこいつ!?
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