内訳

持て余し気味だった週休の二日が実質的に一日になった。というか、僕に限って言えば「そうした」。

稼働日となった一日は榊とコンビで動いている。家族とはまた違う繋がり方や過ごし方をしている。
だからなのだろうか。この唯一の休日に僕は素朴な尊い感覚と開放感で満たされる。
大切に有意義に過ごしたい気持ちというべきか。

有意義、少し前なら真面目なことしか考えられなかった。
大切、少し前なら詰め込むことしか考えられなかった。

今は。

多少なまけだったとしても、自分が安らげて楽しめたならいい、という感じ。真面目にだらけて、真面目に遊ぶ。それが今の僕にとっての有意義と大切の内訳。



昨日の外出は、家のごく近くでのことなのだけど、そういうわけで、僕の中ではデートなのであった。

デート

榊とデート。
榊の眼鏡を買いに。

仕事中、人の手とぶつかって眼鏡のつるが折れてしまったらしい。
度が合わなくなってきたから作り直さないとと、かれこれ一年くらい話していたので、他にも眼鏡はあるものの、思い切ってひとつ買い替えることにした。

一軒めのお店には探していた特殊レンズの扱いがなかったため、それを探すきっかけになったお店に(急行なら隣駅)直接行こうと榊は言う。しかし地元にもいくつか「堅実な眼鏡屋」があるので、まずはそこも覗いてみようと誘った。
向かう途中で、榊が用事を思い出し、榊はそっちに、僕は眼鏡屋へ問い合わせに、わかれた。


「焦らなくていいからね、」手を振りあって、背中を見せる。

少し前だったらどこまでも一緒にべったり付き添い/付き添われていたけれど、こうやってわかれることができるようになった。
自由というより信頼と尊重。自立であり自律。互いに。

手袋

無事家に辿り着くや、荷物を置き、上着や防寒着を脱いだ。
それらを分別しながら山にし直し、いろいろと確認して、気づいた。

「…手袋が、片方ない」


何度改めても片方しかなかった。
途中までその感触を覚えてるが、生活圏に入ったあたりから自信がない。通過地点の報告をするのに何度も外していたから。
遠くないとはいえは、降り続く雪に消されるか、誰かに幸か不幸か拾われて、わからなくなってしまうか。

せっかくやっと帰って来たのに、また雪の中に戻ることにした。
果てない道のりを思いながら玄関を飛び出した。
駐輪場にさしかかったら、なんてことない。雪の淵にポンと落ちていた。


黒いカワの手袋。榊の海外研修のお土産だった。蚤の市みたいなところで買ってくれたという。お揃いだった。中はファーで、あたたかい。そうして今日も僕を守ってくれた。


大げさではなく、抱きしめて、家に急いで戻った。

月と星、灯台

紆余曲折あり、ターミナル駅から徒歩で帰った。
休日にその近くまでウォーキングしているので、諸々の心配はなかった。

心配に堪えかねて迎えに出てこようとする榊を制し、1時間歩いた。

吹雪く中、大橋を渡り、左右上流下流どちらも景色がかき消され、真っ暗で。浮かぶ河川敷の物言わぬ白さ。なんとも恐ろしくなった。
闇も、むっと黙りこんだ景色も、どちらも怖い。

震災の停電を思い出す。
駅から文字通り一歩先は何一つ明かりがない真っ暗で、立ち並ぶビルが高いところから物陰を執拗に塗り重ねてきた。
壁のように立ちはだかる闇に僕は怯えて動けなかった。復帰を待つしかないと諦めていたら、榊がその闇の中を一人、迎えに来てくれた。それを思い出す。

大丈夫。今日はいつもの装備に加えてたまたま耳あてもしてて、露出が少ない。寒くもなんともない。(榊は家の少し先まで出ていたが、顔が痛くてツラかったと言っていた)長靴も機能性のもので、濡れも冷えも一切しなかった。

雪に景色が奪われて、相当慣れた道でも何度か迷った。どこかで落ち合おうとするのは危険だった。
幾分遠回りでも、確実に安全に帰れるように、と大通りや絶対に間違わない路地を選んで帰っていった。

家にいてくれればいい。それで僕は帰れる。引力のような優しいちから、灯台のような安心できる動かぬあかりを思った。

充電の持つ限り、しつこく通過地点を知らせ、1時間ほどでたどり着いた。
家の近くになって、榊が風呂に湯を溜め始めてくれていた。

暮れの走り書き

乾杯以外にちゃんとお酒飲んだのなんて一年以上ぶりだったろうか。これまでは薬を飲んでたし、それ以前にそういう気分になれなかった。病んでる自分でいっぱいいっぱい。場の空気に沿うのでいっぱいいっぱい。昨日は、飲みたくて、飲めて、飲んだ。
美味しくて楽しくてもっともっと楽しみたかった。

折り返し地点を超えて、悲しくなる前に、眠って、寝坊気味に笑って目をさましたい。寝る前や寝起きの懺悔時間はつらい。


本当の本当の本当は、海外とかフラフラ行きたい。
僕は、頭は悪かったけど、言語が好きで、理解できた瞬間と、通じた瞬間の快感の虜だった。加えて、各国の文化の個性を感じることが好きだった。外国フェチ。
僕は頭悪いから、文化にまつわることを知識としてはインプットできなくて、言語から学んだり嗅ぎ取ったりして、ニヤニヤしてた。僕はそういう子だった。

今の会社は、お金は使うためにある/社会と世界を見てこい/急な一日病欠よりも計画的な長期世界旅行を推奨/という奇特な環境。

また海外行きたい。
勧められたのは台湾。性に合ってそうとのこと。自信はないけど、見立てた人の感覚はかなり信頼できるし、榊がここ数年ずっと行きたい行きたい言ってたから、ついでに叶えたい。
住むって言いそう。


それにしても、僕はこの会社で、この仕事で、いいのだろうか。
環境は恵まれている。恵まれているが、向いていない気がする。役に立っていない気がする。今はちょうどよいポストにハマってるけれど、この先一つずつ席を動かすと、僕には力が足りないと思っている。
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