小蕾詠歌帖

「アイシクル」だって。英語でつららは、「アイシクル」。
「あいしくる」って、ねえ言ってみて？

うつくしきもののみを見て生きたしと仰ぐ夜空の星の乏しさ

吾よりも声の明るき事務員に背の丸まりゆく電話口

理由無き涙に視界歪みつつ伝票書きは恙なく済む

女工には女工の苦楽　吾今日も明日のプリンの為に生き抜く

電飾のスイッチ切る様に淋しさも
消えるよ二十五日過ぎれば

戸を開けて猫の影消ゆ霜夜哉

空き家の洗面台に歯ブラシは二本剃刀二十一本

二十年前の金賞 理科室で標本の蝶色褪せている

この駅で乗客はみな流れ去り砂金の粒の貴女が残る

父によく似た老爺かな冬枯木

空の色忘れてしまった大人たちの塗り絵の為に空色はある

完全に黄身と白身の混ざり合うプリンのように宇宙は死ぬの

今夜火を通して欲しい
熱い湯にくぐらす生(なま)の娘(むすめ)のからだ

刹那的永遠の果て　スノードームの水は澱んで青みどり色

週末で胸いっぱいに息を吸い
潜水で泳ぎ切る五日間

生命は白身魚の玉子とじ

冬なんか好きにならない 降る雪に
不意に冷たいキスをされても

猫往にて冬の布団に身はひとつ

猫往にて黒のセーター楽に着る

猫往ぬる家は氷雨にただ冷える

あたたかいしろい毛玉をなでころがす事の出来ない夜は寂寥

どの神に問えば良いのか　苦しみを薬で解くは罪か慈悲かを

縊り殺してやれば良かった　君殺す罪すら僕は半端に背負う


秋の風　鰹の匂いのする棺

炒り子でも入ってそうな白い壺


死んだ途端気配のひとつもしなくなり
猫はどこまでも気ままだと知る

童ひとり　下着売り場をそわそわと
覗くその瞳は「憧れ」か「目覚め」か

朧夜に出でて恋する猫さがし

「追い越していいぞ」と笑って旅立った
あなたも再来月から年下