ACT6-(5)

境内を一通り、見回した後、芳樹と綾人は物吉に満月と美穂を任せて
飲み物を買いに行った。
「…………満月ちゃん、ここのところ忙しかったんじゃない?」
「そうですか?やっと裏方の仕事ができるようになったので、一安心ですけど。」
「満月ちゃん、裏方ホントに好きねぇ。」
「いや、どちらかというと芳樹さんを支えるのが元々だったので。
でも不知火さんに気に入られて女優デビューするなんて思いもよらなかったんですけどね。」
「普通はそうだもの。
でも、満月ちゃんを見るなり清光だ!って言ってオーディションをしなかった不知火さんも
結構強者よ?」
「そうですねぇ…………。
音楽作家兼デザイナーとしてもてんやわんやなのに、そこに加州清光の役もあったから
余計に疲れちゃって。」
「だけど、満月ちゃんの体調を考えてくれて無理のない範囲内で色々と考慮してくれたものね。」
「そこら辺には感謝していますが…………。」
「けれど、満月ちゃんの清光はホントにハマり役よ。」
「でも宝塚だけはお断りです。さすがにあれはきつい。」
「それもそうよね。
宝塚歌劇団は色々と制約があるもの。」

ニコニコと笑いながら話をする美穂に満月はふにゃ、とふやけた顔をした。

「お待たせ、満月ちゃん。美穂さん。」
「だいぶ待たせたようだな、すまない。」
「いいのよ、別に。混んでいたんでしょう?」
「お疲れ様です、芳樹さん。綾人お兄様。」

「………おや?そういえば、あちらの方が少し騒がしいようですね。」
物吉の言葉に4人はん?と一斉に顔を向けた。

「だーかーら、あんたとはやっていけないって言ったのよ!」
「何だと!?俺の何処が気に食わないんだ!?」

「………痴話喧嘩ですか?」
「痴話喧嘩ね。」
「………こういったところで喧嘩をするとは…………。」
「何か色々と無駄な時間を過ごしていないかい?彼ら。」

「大体、あんたってばいっつも貧乏くじ引くじゃない!
このシスコンロリコン!」

「………芳樹さん、お兄様?どうなされましたか?」
「…………いや、何ていうか男の方に親近感を沸いたような…………。」
「………奇遇だな、私もだ。」
「止めに入るわよ。せっかくの祭りなのに台無しじゃない。」

そういうと美穂は喧嘩をしている男女の元に駆け寄った。

「はいはい、喧嘩はそこまで!神聖な神社で喧嘩はよろしくないわよ?
ここの神主さん、穏やかだけど怒ると怖いんだから。」

「あ、貴女は………。」
「姫宮美穂さん………!?」
「あら、自己紹介は要らないみたいね。……で、何で喧嘩していたのかしら?」
「こいつが悪いんです!私と夏祭り行く約束していたのに妹と遊ぶことになったって!」
「だからまだ妹が未成年で小学生だから、1人歩きをさせたらまずいんだってうちの母さんに言われたんだって
言っているだろう!?」
「あら、じゃあ一緒に夏祭りを楽しめばいいだけの話じゃない。
それとも妹さんが邪魔なの?」
「邪魔とは言っていないんです、ただ約束を前後するなって………!」
「なら、一緒に回りなさいな。まだ小さい子は同性がいてくれると、物凄く安心するのよ。
異性同士だと、ちょっと色々面倒事が発生してしまうから。
………そこのバカなんて、満月ちゃんと同じ性別の守り刀を同伴させなかったばかりに
職質を受ける羽目になったのよ。笑えないでしょう?」

「……………。」
「………………。」
「だから、一緒に回ってあげなさいな。別にお兄ちゃんべったりな子ではないのでしょう?」
「………まぁ、確かに。同性がいてくれた方が助かると言えば助かる……のかな。
職質受けるのは嫌だし。」
「はい、無事解決。ほら、お互いに謝る。頭冷えたでしょう?」
「……何かごめん。」
「………こっちもごめん。」

「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんやっと仲直りした!もう、私のことで喧嘩するのやめてよね!」
パタパタとジュースを持ってきた男性の妹が2人に声をかけた。

「…………お兄ちゃん達がごめんなさい!せっかくの夏祭りなのに、不謹慎ですよね!?」
ペコペコと周りに頭を下げる妹に兄はあわわわ、と叫んだ。

「何だ、空気を読んで黙っていたのか。良い妹さんじゃないか。」
「そうですよ、大事にしてあげてください。」
「ああ、そうだな。…………まぁ、職質はマジで笑えないから………。」
「ですね。」
「はい、解散!痴話喧嘩も終わったことだし、夏祭りを楽しみましょう!!」


続く。

ACT1-(6)

………桜庭市、聖堂教会。
そこでは始まりの御三家の一角である、遠坂家当主の遠坂久遠が
草摩瑠樹に話をしていた。
「……つまり、世界の外側には力があるということですか。」
「そうだ。根源の渦と呼ばれる神の座だ。
かつて遠坂とアインツベルン、そして間桐の三家は互いの秘術を提供し合い
万能の釜たる聖杯を現出させた。
だがしかし、その聖杯が願いを叶えるのはただ1人の祈りのみ。
それが分かった瞬間、我々は協力関係を撤退し、血で血を洗う戦いが始まったわけだ。」
「………それが60年に1度、行われる聖杯戦争というわけですか。」
「そういうことになる。聖堂教会としては、
聖杯の使用目的を明確にしている遠坂君に引き渡したい、というわけだ。」
聖堂教会の神父である草摩璃樹は、瑠樹にそう話をした。
「………根源への到達。我が一族はただそれを目的としてきた。
しかし悲しいかな、アインツベルンと間桐はすっかり目的を履き違えてしまった。」
「………僕にも聖杯戦争に参加しろと?」
「そういうことになるな。表面上は我々聖堂教会は中立を装う。
だが、水面下では久遠氏に有利な状況を作れるように最善を尽くすのだ。」
「…………わかりました。」
「ああ、召喚の儀は今夜行う。
瑠樹君、君は今晩までに召喚の儀の魔法陣を描きたまえ。
それと詠唱の呪文も。」
「………了解しました。」


「…………………ふぅん、これが触媒なわけ?」
「………そうだ。」
クレメンス・オックスフォードは妻であるベアトリーチェ・オックスフォードの問いにそう答えた。
魔術協会のつてを使い、クレメンスはサーヴァントを召喚するための触媒を入手した。
「…………これで、最優とされる三騎士のうちの1つ、ランサーを召喚する。
最速かつ迅速にことを終わらせたいからな。厄介なのは最優とされるセイバーだが
まぁ、それに越したことはない。」
「………ねぇ、本当に聖杯を貰ってもいいの?」
「構わんよ。聖杯戦争という戦いに箔をつければそれで良い。私は聖杯に興味がないから、
好きに使っても構わない。」
「感謝するわ。」
「………だが、くれぐれも私の邪魔はするなよ?」
「ええ、わかっているわ。」



続く。

ACT1-(5)

「………………どう、この街は。」
芳樹の運転する車に乗り、セイバーは満月達と共に桜庭市にある商店街を訪れた。
「……………随分と活気に溢れていますね。」
「ここは1番賑やかなところですからね。」

「………ねぇねぇ、あれって綿貫芳樹さんに満月ちゃんじゃない?」
「うわ、本物?」
「この間の結婚式、凄かったらしいね。」
「ああ、見たかったなぁ…………。」
コインパーキングに車を停め、商店街を歩くと通行人達に振り返られた。

「……………新婚旅行はよろしかったのですか?」
「……あはは、しょっちゅう旅行に行ったりしているから今更感があるんだよね。」
「別に焦らなくてもいいんじゃないかなって思っているの。
何事にも順番っていうのがあるから。」
「はぁ…………。」
「………それよりもセイバー。貴女、本当にその格好でいいの?」
満月の言葉に、セイバーははて?と首を傾げた。
「ええ、こちらの格好の方が動きやすいのですが………。」
セイバーの着ている服はダークスーツという、いかにも男装向けの格好であった。
「…………私も男装していたからわかるんだけど、
やっぱり年頃の女の子がそれを着るのはちょっとなぁ………。」
「満月ちゃんがそれを言う?」
「………む、だからこうして年相応の服を着ているじゃないですか。」
「あはは、むくれなくてもいいのに。」
手を繋ぎ、のほほんと会話をするその姿はまるで長年連れ添った夫婦のそれである。

「…………………こんな活気の良い街で、聖杯戦争が起こるのですね。」
「………うん。俺達は聖杯戦争を止める側だからね。」
「何万人もいるこの人里で人知れず、戦いをするって言うのが納得いかないというか。」
「でも止めなければ、たくさんの命が無駄死になってしまいますからね。」
物吉の言葉に芳樹達は頷いた。

「…………何事もなかったかのように振る舞うためにはやっぱり色々と動かないといけないかな。」
「そうですねぇ。」
「……………芳樹、満月。貴方達は最後まで勝ち残ります。
私が最後まで生き残らせます。騎士の誇りにかけて。」

「………ありがとう、アルトリア。」
「………うん。心強いね。」


続く。

飲ませちゃいけないわけ。

姫宮満月には炭酸飲料を飲ませるな、という話がある。

「…………何で炭酸飲料を飲ませたら駄目なんですか?」
テレビドラマの撮影現場にて、
有栖川澪は満月の婚約者である芳樹にそう訊ねた。
「ああ、満月ちゃんは炭酸が苦手でね。
昔からなんだ。
シュワシュワしたものが嫌いなんだよ。」
「…………それじゃあ、アルコールもダメなんじゃないですか?」
「………うん、そうだね。まだ未成年だから飲ませていないけど、
炭酸がダメならアルコールもダメかなぁ。」
「澪ちゃーん、ちょっといいかなー。」
「あ、はい。………でも満月さんにも苦手なものあったんですね。」
「そりゃ、人間だもの。嫌いなものとか苦手なものは誰にだってあるさ。」

澪を見送った芳樹のところに、守り刀である和泉守兼定がやってきた。
「そらよ、差し入れだ。若旦那様。」
「ありがとう。満月ちゃんの前では炭酸飲めないからね。」
「…………あの子に言わんで良かったのか?
お嬢様が炭酸飲料を飲んだら、酔っ払うって。」
「………言えるわけないだろ。
満月ちゃん、酔っ払うと感度良くなるって。澪ちゃんにはまだ早すぎる。」
「だろうな。」
あはは、と笑う和泉守に芳樹はため息をついた。
「炭酸水もダメだからなぁ、お嬢様。」
「…………誰だよ、炭酸水が美容に良いとか言っていたの。」

そういうと芳樹は缶コーラの蓋を開けて、いっきに飲み干した。


終わり。

ACT1-(4)

「…………とりあえず今、わかっている情報としては
遠坂、間桐、アインツベルンの御三家は確実に当主が参加するだろうね。」
「そうですね………三家とも、根源への到達を目的としていますけど
間桐とアインツベルンは目的を履き違えていますから1番厄介なのは
遠坂ぐらいですかね。」
「御三家、ですか。」
「うん。
聖杯戦争のきっかけを作った始まりの御三家。
遠坂は宝石魔術の使い手だし、間桐は蟲の使い手、
アインツベルンはホムンクルス鋳造に長けているし。
でもわかっているのはそれだけよ?」
「問題は残る3枠の魔術師ですね。」
「そうだよ、セイバー。
俺達の陣営と始まりの御三家を除けば後3枠が残っている。
魔術協会で1枠は確実だから、正確に言えば2枠がある。」
「………外来の魔術師が2枠………特に厄介なのがアサシンの英霊を引き当てた魔術師ですね。」
「まあ、歴代のハサン・サッバーハを引き当てるのは確かなんだろうけど、
誰が来るかはわからないな。」
「そうですね。
始まりの御三家がアサシンを引き当てる可能性も十二分にありえます。」
「…………。」
「………………。」
「………ま、まぁ、当面は情報収集が先でしょうからまずは僕達にお任せください。」
「………そうだね。情報収集は守り刀に任せるとして…………。
ひとまず、街に出ようか。」
「…………はい?」
「………桜庭市がどういった構造をしているのかを知るにはもってこいの機会だし。」
「………ああ、なるほど。そういうことですか。」
「………四神相応の地だから、戦いやすい場所と戦いにくい場所があるだろうし。
セイバーの聖剣は対城宝具だもん。
状況と場所を選ばないと、なかなか真名解放できないから。」
「………そうですね。私の宝具は、対城宝具です。
真名解放はタイミングが必要となってきます。」
「宝具解放のタイミングはセイバーに一任するよ。
いちいち俺達が許可することじゃない。」
「戦いのことはセイバーが1番よくわかっているから。」
「………わかりました。2人の配慮に感謝します。」
「いえいえ、礼を言うのはこちらの方だよ。セイバー。……いや、アルトリア・ペンドラゴン。」
「この桜庭市で2度と聖杯戦争が起きないように勝利するのが私達の目的だから。」
「………はい。」



続く。
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