綿貫家の庭園は公園並みに広い。
様々な品種の花が季節柄、見頃を迎えている。
庭園を歩く芳樹と満月の後ろを、セイバーは1歩下がって見守っていた。
「………セイバー、どう?楽しんでいる?」
「ここの庭園は気に入ってくれたかな?」
足を止めた2人にならい、セイバーも足を止める。
「………ええ、ここは素敵な場所ですね。十分に手入れがされている。」
「…………気に入ってくれたようで何よりだよ。」
カフェテラスには守り刀である物吉が人数分の紅茶と菓子を用意して待っていた。

「………それにしても意外だった。
アーサー王伝説に出てくる王様がまさか年端もいかない少女だったなんて。」
「私とそんな歳が変わらないなんて、驚いたよ。」
「……確かに私は男として振る舞っていましたが………。
2人共驚くことはないでしょうに。」
「まあ、嘘に嘘を重ねた結果が後の歴史に伝えられたみたいな感じだもんねぇ。」
「驚きはしたけど、君が少女であってもアーサー王であることには変わりない。」
「そうそう、あの有名なエクスカリバーの担い手だものね。
いちいち、性別にこだわっていたらキリがないわ。」
物吉の淹れた紅茶が配膳され、満月は青磁のティーカップに口をつけた。
「………うん、美味しい。」
「今月1番出来のいい茶葉を収穫いたしましたので。……セイバーさんも良かったらどうぞ。」
「ありがとうございます、物吉。」
「…………まぁ、何にせよセイバー。昨日も言ったけど、君の願いは叶えられそうにもない。
それだけは肝に銘じておいて。」
「……そうですね。汚れた聖杯に願いをかけようものなら、どんな災厄が起きるか。」
………そう。今回の聖杯戦争で勝者である1組だけが手に入れることができる万能の願望機。
その正体は敗れたサーヴァントを集めてできた魔力、またはそれを世界の外側へ放ち穿った
孔から引き出した魔力が願いを叶えられる力の正体である。
「………外来の魔術師とサーヴァントが入手するとすれば、聖杯の器だけどね。
聖杯の器の役割は敗れたサーヴァントを集めて大聖杯に通ずる孔を開け、
大聖杯を完全に起動させる。
6騎も集まれば、世界の内側のことは何でも叶えられるだけの魔力になる。」
「7騎すべてを集め終えると大聖杯が完全に起動し、集めたサーヴァントを世界の外側に放つ………。
最後には自分のサーヴァントもお役目御用って言うのは納得いかないわね。」
「………そうですね。そのような形でしか願いを叶えることができない聖杯など、
要らないものですね。」
「…………せっかく召喚したのに、こんなことを伝えてごめんね。セイバー。
でも。この聖杯戦争はきちんとした形で終わらせないといけないの。」
「………ええ、そうですね。
この桜庭市が大災害にまみれることだけは絶対に避けなければ。」
1歩間違えれば、災害にまみれるであろうこの都市を死守することがセイバー陣営の役割である。
「泥にまみれた聖杯で、ブリテンの救済は叶えられそうにもない。
ならば、この都市を守ることが我が望み。そのためなら私は力を貸しましょう。」


続く。