有栖川澪、8歳。
彼女は今、天才子役として名を馳せていた。
……だが、そんな彼女も密かな夢を抱いていた。

「……………ねぇ、ママ。」
「何?」
澪はある日、マネージャーを務めている桜子にこんなことを訊ねた。
「…………恋愛したいって言ったら、どうする?」
その問いを聞いた瞬間、桜子は持っているスマホを落としそうになった。
「………ちょっと待って。そういう話は専門家に任せるから。」



「…………で、私に聞こうとしたわけ?」
「………そうなんですよ。満月さん、生まれる前から結婚相手が決まっているって言うから、
話を聞くだけ無駄じゃないってママが。」
喫茶店で澪は8歳年上の満月に相談した理由を話した。
「まあ、確かに性別が分かった時点で結婚相手が決まったのは事実だね。
綿貫は姫宮をあらゆる方面から守る代わりに、女児が生まれたら
綿貫に寄越せって約束をしていたからね。」
「………あの、満月さんは不満なんてなかったんですか?
物心ついた頃から婚約者がいるってことに。」
「いやぁ、不満なんて感じたことはなかったね。
ほら、刷り込み効果って奴でさ。
1番最初に見たものを親と信じ込む効果っていうの?
そう言う感じが強かったかな。
あ、私、この人の番になるんだなぁって。」
「…………。」
「…………答えにはなっていない?」
「全然。だって、普通の年頃の女の子だったら今時、自由な恋愛したいとか言い出すと思うんですけど。」
「あー……自由な恋愛ね。そりゃ確かに身分違いの恋にも憧れたことはあったよ。
でも、後々が面倒でさ。こういう家に生まれた以上、どうしても身分違いの恋はできない、
私は身分相応の恋しか許されないんだなぁって幼いながらに悟ったよ。
でも、それを感じさせないほど、芳樹さんにはよくしてもらったから。」
「はぁ…………。」
「まあ、つまるところ、恋愛に年齢なんて関係ないけどさ。
ひとまず、澪ちゃんの年齢で恋愛はまだ早いかな。
子供でいられる時間を大事にしろって話。
私みたいな境遇の人間なんて、結構特殊だし、参考にはならないよ。」
「でも話を聞くだけタダじゃないですか。」
「そりゃ、そうだけどね。」
「でも、満月さんと芳樹さんみたいな恋愛をしたいなって夢はあるんですよ。
歳の差婚になるんでしょうけど、お互いに思い合っているっていうか。
相思相愛って奴というか。」
「まあ、お互い思うのは大事なことだね。
一方通行の恋愛は止めた方がいいよ、ろくでもないから。」
「はぁい。」




終わり。