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拾いもの話・弐の2

いきなり昨日の続きから行きたいと思います。

あ、晋助と新八の関係を若干変更しています。あと、即興で書いてるのでそこら辺にも注意です。

では晋助サイドから!

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「…まだ見つからねーのか」

高杉晋助は心底苛立ったように、ソファの脇にあるローテーブルを拳でどんと叩いた。その衝動で、グラスの中にあるブランデーの湖面がゆらゆらと揺れている。

「たかがガキ一匹、何で見付けられねェ?そこまでうちには能無しが集まってんのか?」

苛立ち紛れに辛辣な言葉を吐き捨て、高杉は正面に立つ河上万斉を一瞥した。
右側に視線を落とした高杉の表情は、彼の真正面にいる河上からはどうしても窺えない。焦りか、苛立ちか、それとも挑発か。その左目がどんな色を湛えているのかを、河上は知らない。なぜなら、高杉はもう随分昔にそれを失い、今そこにあるのは眼帯のみだからだ。

「部下が必死になって行方を追っている。子供一人探すなどたやすいでござる」

不思議に時代がかった口調で喋る青年は、部下達が血眼になってある一人の少年を探している旨を高杉に伝えた。それでもまだ苛立つのか、高杉は軽く舌打ちをしたのみだ。

「草の根を分けてでも探せ。見付けたら確実に連れて来い。ただし、殺すな。指一本足りとも触れたら許さねェ…始末するかどうかは俺が決める」

高杉はゆらりと立ち上がり、右の独眼で河上を鋭く射抜いた。失敗は許さない、失敗は即己の死に繋がる、そんな意味合いが込められた視線だった。河上は無言で頷く。もちろん、任務の遂行を約束する意味だ。それを見届け、高杉は不機嫌そうに寝室に消えて行った。

だが、河上にはどうしても分からない事がある。高杉が今探しているのは、彼の義理の弟だ。血の繋がりがある訳でもない、ましてや組織にとって有望な人物である訳でも何でもない、ただの義理の弟である。ただし、組織にとって有益かどうかなど論じる必要もないのかもしれない。まだ彼は16歳、ほんの子供なのだから。
従って、高杉の部下である河上の目から見ると、そんな子供に何故ああまでして高杉が必死になるかが分からなかった。


高杉晋助という男はいつでも冷静な人物である。時には冷酷と言える程に冷たく、計算高い。組織の邪魔となる人間はことごとく排除きた。たとえそれが血肉を分けた部下としても、高杉は容赦なかった。
だが、その冷酷さでここまで組織を大きくしたのも彼である。父親からグループの権限を譲り受けた時点で既に山のようにあった資金を、彼は僅か三年で倍の額にしてみせたのだ。恐ろしく頭のきれる男、だが、ひどく冷酷無慈悲な男。そんな上司の才に惚れ込み、ここまで付いてきた河上であるがこそ、その高杉が何故こうも義弟にこだわり続けるかだけが不思議だった。

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すいません、異母兄弟にしようと思ってたんですが、やはり義理の兄弟にしました。ここから二人の生い立ちや色々葛藤があるのですが、かなり暗い話になるので本当に注意して下さい。高杉家のダークサイド?

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高杉は常に一人だった。組織の頭となる為、自分が絶対と思うよう、幼い頃から父親に教育されていた。いわば帝王学であるが、幼い高杉はそれを何ら不思議に思わなかった。回りはいつも大人達で溢れていたし、父にかしづく部下達を自分も将来従えるのだと、何の抵抗もなく思っていた。
そんな少年の生活が一変したのは、高杉が17歳の時である。父が、愛人を連れて来たのだ。

裏の世界やアッパークラスと言われる一部の富裕層の家庭では、妻妾同居と言うものも珍しくはないのかもしれない。ただし、それは一昔前であって現代の話ではない。だが高杉の父親はそれを望んだのである。

愛人の為に敷地内に別宅まで作る入れ込みようで、そこに彼女と、彼女の6歳になる息子を住まわせた。

特筆すべきは、この小さな少年の事である。何を隠そう、この少年こそが志村新八だった。父の愛人の連れ子である新八は、当然高杉家や高杉の父とは何の血の繋がりも持っていない。ましてや、妻でもないいやしい身分の女の息子だ。当然排除すべきと父が考えると思っていた高杉は、初めてその父に裏切られる事になる。

父は、彼女の息子ごと、愛人を愛していたのだ。

“愛”。

そんなものは何の価値もない、何の利益も産まない、何の意味も成さない。そう高杉に教え続けてきた父は、何の身分もないただの女を愛していた。血の繋がりのない、彼女の息子さえも。

その時若干17歳だった高杉の気持ちを語るのは筆舌に尽くし難い。ただ彼は、絶対と信じてきた、ただ唯一無二の存在と信じていた“父親”を、その時失ったのである。無論、精神的な話だ。

父が何を考えてそこまでこの愛人を擁するのか、その頃の高杉にはどうしても分からなかった。

だが、高杉は心の底では気付いていたのである。高杉自身の母親は若く美しい女だったが、それだけだった。強いて言えば、彼女の実家は資産家で、結婚後は多額の金を高杉家に引っ張っていた。しかし、それだけだったのだ。父は、高杉の母親を愛した事など一度足りとてなかったと今なら言えるだろう。
新八の母親は、高杉の母とはまるで違う雰囲気を持つ女だった。別段美しい訳でも莫大な資産がある訳でもない。ただの女だ。しかし、高杉が覚えうる限りでは、彼女はいつも笑っていた。妾という辛い立場でありながら、彼女が辛そうにしている姿を、高杉は一度も見た事はなかった。

大学に進学した頃には、高杉はもう半ば父の心に気が付いていた。父は、高杉の母を“道具“として側に置いたのだ。多額の金を引っ張れる、ただ美しいだけの道具として。
その母も父と同類の人間だったのか、妻妾同居が始まって三年で若い恋人を作り、家を出て行った。もちろん、高杉を置いて。

悲しくはなかった。物心ついた頃から、高杉には”悲しみ”という概念はなかった。ただ、母を哀れな女と軽蔑した。しかし彼女と会うことはもう二度とないだろう。高杉は安心した。心のどこかで、心底安堵していた。

母と自分は父にとって不必要だったのだと、心の奥底で常に感じていたからである。


本妻が出て行っても、新八の母親は別宅に住み続けた。当然父とは入籍もしなかった。父は散々そうなることを願ったが、新八の母は頑として譲らなかった。

『奥様に顔向けできません』

そう言っていつも少し淋しげに笑っていた。

新八は、そんな彼女にとても良く似ていた。

茶色がかった黒目がちの瞳や頬のラインなど、見た目にも似ていたが、何より性格がそっくりだった。自分の事よりいつも周囲の人間に気を配るところ。父や高杉のような人間にまで、ひどく優しいところまで。

高杉にとって新八は、邪魔物でしかなかった。どんなに冷たくあしらっても、翌日には笑いかけてくる。その笑顔に心底辟易し、心底憎んでいた。
高杉にとって新八は、父をたぶらかした女の息子だ。誰がお前なんかに懐かれてなるものかと、必死だったところもある。

それなのに、何故なのだろうか。

いつからか高杉は、新八が自分の名前を呼ぶ度に何故か妙な気分になった。少年が新しい友達の事を嬉しそうに報告する度、高杉の心はざわざわと波うった。

『誰がテメーなんか』

そう心で唱えても、その葛藤は決して消えなかった。


そんな折の事である。高杉は23歳、新八は12歳になっていた。既に新八とその母との暮らしも六年目に差し掛かっていた、ある冬の日のことだった。

新八の母親が突然の交通事故で亡くなった。よそ見運転をしたトラックにはねられ、即死だった。ひどい事故だったのに不思議と遺体は綺麗で、横顔などまるで眠っているようにさえ見えた。だが、彼女はもう永遠に微笑まない。もう二度と、生きている彼女に会う事はできない。


彼女の葬儀の日のことを、高杉は今でも良く覚えている。東京には珍しく、ちらちらと雪が降るような寒い日だった。

『お母さん…』

泣き腫らして赤く染まった目元から、新八はまた涙を零していた。泣きながら、母の遺体が納棺されるのを黙って見ていた。指先が白くなるほど、ぎゅっと小さな拳を握って。

その涙を、高杉は不思議な気持ちで見つめていた。己の母が出て行った時でさえ、高杉は何も感じなかった。それなのに、隣で泣いている新八の涙がひどく心に痛かった。
それは、高杉が生まれて初めて感じた“痛み”だった。


高杉の父は愛する女の不慮の死に哀れな程に落ち込み、彼女の忘れ形見である新八を養子とした。新八が、高杉を『兄さん』と呼ぶようになったのはこの頃からである。

その父も、新八の母が死んでから一年でこの世を去った。癌だった。手厚く養生すれば治せたはずなのに、父はそれを望まなかった。ただ、グループの権限を全て高杉に譲ることを託し、父は急逝した。新八の母が亡くなってから、ちょうど一年目の冬のことだった。

高杉に残されたのは、莫大な資産と、裏社会を取り仕切る高杉家のトップという席、そして、弟となった新八だけだった。


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すいません、高新的にどんどん暗くなります。真面目に注意!

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高杉がトップに就任して二年で、高杉の実力はどんどん開花していった。もともと、父からの帝王学を教え込まれたせいもある。だが何より、高杉には才能があったのだ。彼の回りにはいつも人が集まった。暴利な程に絶対的な光に、人はどうしても捕われる。
そして捕えられた人間を使い、高杉は名実共に頂点に立ったのだ。

だが、高杉の心は一向に晴れなかった。中学三年になっていた弟の新八が、己の事をどう感じているかが薄々分かってきたせいである。

新八は高杉が薬物や殺しに関わることを、良く思っていなかった。

『兄さんは、何の為にこんなことをするの?』

新八の目を見る度、いつもそうやって非難されているような気がしていた。しかし新八の本心は違う。ただ彼は、兄と共に静かに暮らしたかっただけだった。

高杉家という重責を担い、総てにおいて完璧に立ち回る事を余儀なくされる兄。新八は、そんな兄を救いたかった。いくら血の繋がりはないとは言え、新八にとってはただ一人の家族だ。新八は兄を尊敬していたし、好いてさえいた。ぐるりと彼の心を囲む高い塀を越えられるのは、もう自分だけだとも思っていた。そんな兄だからこそ、犯罪に繋がるようなことから手を引いてほしかった。

そんな二人の心の擦れ違いが、あの夜に起こった決定的な“事故”の引き金に繋がっていく。


その夜、高杉はひどく疲れていた。部下の失敗のせいで、自分までもが立ち回ることを強要されたせいだ。立て続けの部下の失態に、高杉はひどく腹が立っていた。

『兄さん、大丈夫…?』

そんな兄を心配してか、新八はソファに座る彼の横に座った。兄の目を見る弟の眼差しには、“心配“の二文字以外ない。それなのに、高杉の苛立ちは収まらなかった。新八の目を見るだけで、堪らなかった。


―何故いつもそうなんだ

―何で、お前はいつもそんな目で俺を見る

―そっくりだ、父を奪ったあの女と

ここまで考えた時点で、高杉は我を失った。隣に座る弟を、ソファへと押し倒していた。


高杉が唯一覚えているのは、弟の悲鳴と、彼が啜り泣く声。
必死に叫んで、恐怖におののいた顔。

高杉は、自分が何故こんな事をするかすらも分からなかった。しかし、父が新八の母を求めたように、高杉自身もまた新八を欲していた事だけは理解した。

そう、心の奥底で、高杉は新八を手に入れたかったのである。絶対的な何か、新八が自分のものになる決定打が。


その夜の出来事を境にして、二人を繋いでいた”兄弟“という関係は終わりを告げた。


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…ズーン(100dくらいの石付きで)。暗い。何かもう自分で書いててズーンとしました。何かパラレルなのに晋助をこんな奴にしてすみません。つーか高杉一家の事を書いただけなのに恐ろしく字があるよ!楽しかったんだね!(うん!)

銀新のプチ同棲ライフや、何で新八が逃げ出したか?など色々書き足りないので、また明日に続きます!(えええ)

日記で初めて一万字も書いた。

ブログコメント返信



追記より、コメント返信です。


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