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拾いもの話・弐の7

こんばんは!今日も今日とて皆さんの細い肩にずっしりとくる重たい話を投下しに参りました☆彡(誰かコイツ黙らせてェェェ!!)


この話の冒頭で出て来た真選組の三人を覚えてらっしゃるでしょうか。勲、トシ、総悟の三人は刑事です。そんなトシと総悟の場面から始めてみたいと思います。

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「…このクソ忙しい中、人捜しだァ?」


己の机に山と積まれた書類の束から顔を上げ、土方十四郎は苦虫をかみつぶしたような表情を作った。

この課の副所長である彼には、毎日嫌と言う程書類に目を通す仕事がある。それを遮るような部下のたわいない一言には、いくら『鬼の副長』の異名を取る土方とは言えども、気概を削がれるのも無理はないかもしれない。


「はい。人捜しでさァ」

土方の机の前に佇む青年は、まだ少年ともとれる幼い顔立ちをしていた。だが常に眼光鋭い土方にも全く物おじしない様子から察するに、その若さにして彼はもう様々な事件を解決してきたのだろう。彼の有能ぶりは警察学校を出てすぐに、ここ、警視庁捜査一課に配属された事でもう証明されている。

沖田総悟は既に優秀な刑事だった。

「土方さん、アンタが言い出したんですぜ。…高杉晋助の情報を掴んで来いって」

沖田はちらりと回りを見渡し、一段声のトーンを低くした。彼の口から出た“高杉晋助”という単語に、土方の眉がぴくりと上がる。男は乱雑に書類の山を腕で払い退けるなり、口にくわえていた煙草をゆっくりと指に挟めた。

「高杉か…」

呟いて、ふうと紫煙を吐き出す。沖田はそれに一つ頷き、くるりと軽やかに踵を返した。

「オイ、総悟。どこ行くんだ」

「聞かれちゃまずい話もあるでしょーや。上で待ってやすぜ」

沖田はちらりと土方に視線を投げ、捜査一課がおかれた部屋を足早に出て行った。それを見送り、土方も立ち上がる。さすがにここでは人が多過ぎるか、と辺りを軽く見渡した。刑事達は各々の仕事に没頭しているとはいえ、自分達の話をいつ誰に聞かれるとも限らないからだ。内密に進めたい事件もある。特に上司であり所長でもある近藤勲、沖田、そして土方ら三人は今、途方もなく大きな獲物を追っていた。

しかしながら、見慣れた捜査一課の人員の中に、近藤の姿はなかった。彼にも聞いて欲しい情報ではあるが、もう行くしかない。沖田が掴んできた情報を、今、土方は喉から手が出る程に欲していた。

沖田が口にした、その男の情報。

『高杉晋助』。

それは、土方が刑事になってからずっと追ってきた男の名前だった。


――…


まだ吹く風も冷たい為か、屋上の人影はまばらである。そのフェンスに体を預け、沖田は何かを考えるように虚空を見つめていた。

「…あ、土方さん」

近付く足音に気付いたのか、青年が素早く視線を戻す。くわえ煙草のまま鋭い双眸を光らせる男に、沖田は不敵に笑ってみせた。

「オイ、何が面白いんだ総悟」

「いやね、アンタでもそんな風に殺気をだだ漏れにすることがあんのかって思いやしてねェ。あの冷静沈着な鬼の副長殿が」

愉快そうに唇を吊り上げる沖田を一瞥し、土方は乱雑に頭をかいた。この若さなのに沖田は妙に老成したところがあるのだ。人並みに青年らしさも残しているのだが、その内面はどうにも計り知れなかった。沖田は非常に頭はきれるし、拳銃の扱いも上手い。だが何故か彼には嗜虐的な嗜好があり…つまり端的に言うと、彼は『ドS』という種類の人間である。

しかし、部下として、刑事としての才能だけは土方も彼を高く評価していた。

「土方さん、今にも人を食い殺しそうですぜ」

試すような微笑を浮かべて、沖田がゆっくりと腕を組む。常に人を選定しているような態度の青年に、土方は小さく舌打ちをした。

「ンなこたァどーだっていい。総悟、何を掴んだ?野郎の情報…高杉の」

「ああ。それですかィ」

苛立ちを抑え切れない土方を尻目に、沖田は自分の警察手帳をパラパラと素っ気なくめくった。自分で来いと言った癖にここまで焦らしてみたり、餌を散々見せ付けた上でのこの行動、全くもって末恐ろしい青年である。

「だから、“人捜し”ですよ。土方さん」

そんな沖田が、再びそれを口にした。“人捜し”。

だが土方が追っている高杉とその単語が、どうにもイコールで結び付かない。
土方はいらいらとした様子を隠す事なく煙草を揉み消し、沖田を鋭く睨み据えた。

「まどろっこしい言い方はすんな、総悟。何が人捜しなんだ?」

沖田はくるりと大きな瞳を回し、興味深そうに再び手帳をめくった。ぱらりと乾いた紙の音が小さく鳴る。

「野郎には弟が居るでしょう。あれですぜ、義理の弟」

手帳から目を上げずに沖田は質問に答えた。

高杉晋助の義弟。
その人物には土方も心当たりがある。

確か、高杉の父親の愛人の息子だったか。養子縁組で高杉家の人員、つまり高杉晋助の弟となった筈である。まだ年端もいかない少年だったという覚えはあるのだが、その彼がどう人捜しに関わってくるのだろうか。

沖田は話を続けた。

「その義弟…『新八』って名前らしいですがね。どうも突然消えたらしいんでさァ。謎の失踪ってやつだ。高杉はそいつを捜してる。手下連中総出で血眼になってるそうですぜィ」

沖田の説明を聞いて、土方の頭にも閃くものがあった。
なるほど、人捜しとはそういう意味だったのかと納得する。

男は新たな煙草を取り出し、カチリと愛用のライターで火をつけた。笑みの形に唇を歪める。

「なるほどな。“弟”か…。野郎に畳み掛けるなら、どうやらそこにしか隙間はねーな」

「奇遇ですねィ、土方さん。俺も同じ事を考えてやした。…高杉連中より早く例のガキを見つける。そこに野郎も現れる。高杉を崩すにはどうもこれしかねェみてーだ」

素早く思考を整理させたのか、土方が言おうとした言葉を沖田が一足早く組み立てる。そのきれの良さにふっと僅かに微笑み、土方は煙草を燻らせた。

春なのに冷たい風が、たなびく煙を掻き消して舞っていく。


「野郎には散々煮え湯を飲まされてんだ。奴のせいで何人こっちが犠牲になったか知れねェ。…だけどな、総悟」

独り言のように呟き、土方は沖田を見つめた。男には今一度、沖田に言っておきたい事があった。

高杉晋助に関わるという事が、どういう意味を持つのか。

裏社会の実力者である高杉を追い詰めたいという野望や野心を、刑事である人間であれば誰もが皆抱いている。だが一筋縄ではいかない人物であるという事もまた事実なのだ。

高杉が薬物や銃の違法売買に絡んでいる事は間違いない。しかし迂闊に尻尾を出す男である筈もない。そんな男が探す義弟の存在に、刑事としての勘が警鐘を鳴らしている。

高杉の弟を探す。そこに必ず高杉も絡んでくる。それを突破口にして、奴を潰す。

それこそが土方や近藤の長年の悲願であり、己の刑事人生で培ったもの全てをそこに捧げてもいいと誓えるだろう。

だがしかし、犯罪の大規模なバイパスを持っている高杉という人間の為に、多くの警察関係者が犠牲になっている事も真実だった。
沖田はまだ若く、刑事としての未来を嘱望されている。そんな彼を危ない事件に巻き込んでしまっていいのだろうか。


「…高杉に何人消されたか知れねーんだ。総悟、お前に何かあったら…故郷に居るお前の姉貴に顔向けできねェ」

自分らしくないとは知りながら、土方は言葉を詰まらせた。

故郷に居る沖田の姉とは、土方や近藤も古くからの知り合いである。その縁で沖田自身も警官という道を志したのだ。言わば、彼等は”同士“だった。

目の前の沖田の顔に彼の姉の姿が重なり、それは土方の胸を強く揺さ振っていた。

「総悟、手ェ引くんなら今のうちだ。何しろ、今回の山は近藤さんには言わねーからな。…あの人にはもう護るモンがある」

僅かに空を見つめ、土方は己の思いを口にした。

『近藤には言わない』。

土方がついさっき決めた事だった。近藤にはもう心に決めた婚約者が居る。万が一の事が起こらないという可能性はどこにもない。ましてや相手はあの高杉だ。

土方は、今回たった一人で捜査をするつもりだった。

「へェ。単身捜査ですかィ。こりゃ刑事の鏡だね」

沖田が再び緩く笑う。人を食うようなその笑顔は忌ま忌ましいのだが、土方は皮肉を返すつもりもなかった。

代わりに、じゃり、と半歩だけ下がる。言いたい事はそれだけだった。

「分かったな、総悟」

だが、言うなりくるりと返そうとした肩をぐっと沖田に捕まれる。彼は挑戦的な目をこちらに向けていた。

「土方さん、そりゃねーや。姉貴の事を言えば俺が言うことを聞くとでも思うんですかィ?」

「…総悟、」

ぐっと至近距離で顔を覗き込まれて、土方は言い淀んだ。その顔にそっくりな沖田の姉の事が頭を過ぎっていく。

沖田はゆっくりと口を開いた。


「単独捜査なんて死にに行くようなモンですぜ。あんたにゃハードボイルドは似合わねェ。せいぜい火曜サスペンス劇場だ」

「オイ…なんだ、火曜サスペンス劇場って」

「しかも刑事じゃねェ、崖際に追い詰められる方だ」

「おいィィィ!!犯人か!?」

「もしくは断崖絶壁から落とされる方だ」

「今度は死体かァァァ!!ちょっ、総悟お前、殺したがってるだろ?軽く俺を殺したがってるだろ?」
「そんな事ァどーでもいいってなモンでさァ。例えです、例え」

「どうでも良くないんだよ、俺がどうでも良くないんだよ!!」

「つまり、土方さんみたいなハードボイルド決めたいのに決められないハーフボイルドには、単独捜査なんて到底無理ですぜ!」

「もうお前さ、喧嘩売ってるよな…?なんか『いい事言った!』みたいなどや顔してるけど、ようは全部侮辱じゃねーかテメー総悟ォォォ!!最初っからここまで延々と築き上げてきた俺のハードボイルドを返せ!!」


散々な会話の応酬を繰り返し、土方が唸りをあげる。それに微かに笑い、沖田は男を見つめた。

「心配しなくても、誰もアンタをハードボイルドとは思いやせん。せいぜい土方さんは半熟でさァ」

うんうんとひとしきり頷く沖田に、土方がいよいよ本物の殺意を抱き始めた頃である。沖田はニヤリと口角を上げて、内緒話をする時のように人差し指を己の唇に当てた。

「“ハーフボイルド”、つまり半熟なら半熟らしく、ふたりで捜査するってのはどうですかィ。俺も半熟、アンタも半熟だ。足りない脳みそでも、一人でこねくり回すよりよっぽどマシってもんだと思いやせんか?」

好戦的な表情を崩さない沖田の言い草に一瞬呆気に取られた後、土方は破顔した。

この男を説得するなど、やはり無理だったか。それとも彼の刑事魂に火をつけてしまったか。

土方は低く喉奥で笑った。まだうっすらと寒い春の空を見上げる。今度こそ高杉の尻尾を掴んでみせる、と心に誓った。

誰でもない、小生意気なこの部下と。


「…これから忙しくなるぞ」

「とりあえず土方さんがホシを洗い直す事が必要ですねィ。あと昼飯の弁当を買ってくる仕事も頼みましたぜ」

「そりゃ仕事じゃねェ、パシリじゃねーか!つかオメーの仕事だろうが総悟ォォォ!!」



若き刑事達二人の調査は、今まさに始まったばかりである。


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総悟とトシの二人でした。つーかなんかカップリングくさいけど、カップリングじゃないです。が、私は元々から沖土が大大大好きなんで、どうにもホモくさくなるという話です(え?)。

再び続きます。

ブログコメント返信



追記より、コメント返信です。


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