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拾いもの話・弐の3

またしてもいきなり続きからいきます。そしてすみません、若干の性描写を含みますので閲覧にはご注意下さい。そしてかなり暗い話になりますので、その辺にもくれぐれも注意が必要です。

では高杉兄弟の過去から。


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“あの夜”の出来事を経て、兄弟の関係は変わり始めていた。しかし、外見だけ見てもその変化は取るに足らない、ほんの些細なものだった。二人の回りに多数いる人間達も、たとえ彼らを幼少の頃から知る人物だとて、その異変には何ら気付くこともなかった。
しかし、二人の間には今までにない“何か”が生まれつつあったのである。

悪夢のような一夜の後、高杉は新八を頻繁に抱くようになった。無論、承諾などは取らない。ただ欲に任せて彼を抱いた。

一旦そうなってしまえば、後はなし崩しだった。新八に触れている間だけ、高杉がいつも感じていた焦燥感は消えた。それすなわち、

“自分は何の為に産まれたのか”

“父や母は自分を愛していたのか”

“自分は何故、こうなったのか”

という心の奥に常にあった疑問だった。だが、高杉は自分にこのような葛藤がある事には気付かなかった。否、気が付かない振りをしていた。心の奥、深層心理の果てで自分自身の存在を常に問いただしていたことに、必死で気が付かない振りをしていた。

しかし普段は恐ろしいほど頭の回る男が、うっすらとだが漂う疑問符を無視し続けられる筈がない。その事に気付きそうになる度、自分を律することができなくなる度に、高杉は新八を求めた。

兄弟の関係が変わっても、新八は相変わらず高杉を『兄さん』と呼んでいた。その意はもう新八にしか分からない。ただ新八は、兄がひどく乱暴に自分を抱いた後、我に返ったように自分の体を抱きしめる事を知っていた。謝る事のできない兄が、その瞬間、精一杯のざんげで激しく葛藤している事も。

だからなのかもしれない。一時は兄を憎もうとした新八だが、どうしても彼を憎む事ができなかった。

新八を抱きしめている時の兄の手の指先は、いつも細かに震えていた。兄は自分でも気が付いていないのだろう。しかしそれが何故なのか、新八だけは知っていた。

新八が物心ついた頃から、兄が不安げにしている姿などは皆目見た事がなかった。兄はいつも優秀で、品行方正、いつでも回りの人間に讃えられていたような人物だった。そんな兄が新八の誇りだったし、素直に尊敬していた。その兄が、新八を抱いた後はただ震えている。情事の最中に見せる姿とはまるで違う、ひどく弱々しい姿で。

己の中にある焦燥や葛藤に苛まれて震える彼は、新八の知る兄の姿ではなかった。それでも、その指先の感触に触れる度、今回だけは許そうと新八は思ってしまうのだった。たとえその『今回』が、毎日のように続くとしても。

だが、ただ単に新八は怖かったのかもしれない。六歳までずっと母一人子一人で育ってきた新八には、家族という家族は母以外いなかった。母は自分を養う為に毎日遅くまで働いていた為、新八はいつも一人だった。暗い家の中、いつも一人で膝を抱えて母を待っていた。
だからこそ、新八はとても嬉しかったのだ。六歳のある日、生活が一変したこと。新しい“家族”が増えたこと。当時まだ六歳だった新八は、高杉の父と母がどんな関係にあるかすら当然分からず、ただただ家族が増えたことが嬉しくてならなかった。ずっと年の離れた兄ができたこともひどく嬉しく、また誇らしかった。たとえその兄に邪険に扱われたとしても、新八は兄を好いていた。臆することなくいつでも兄に纏わり付いていたし、兄の後ろを付いて回った。

だからこそ、今、新八は怖かった。今はもう義父もいない、母もいない。家族という家族は兄一人だけになってしまった。

―その兄からさえも、不要と思われたら?

それを考えるだけで、目の前が真っ暗になるほどの衝撃だった。幼い日、ただ母を待って暗い家で泣いていた頃を思い出した。それだけは嫌だった。


だが、相反する感情が、兄を憎む気持ちと、唯一の家族である兄を愛しく思う気持ちが、少年の心を緩やかに壊していくことになる。それは緩慢ではあるが、確実に新八の心を壊していった。


新八、15歳の冬の事である。



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この先、ますます話が重たくなると思います。注意。

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年が明けても、兄弟の関係は変わらなかった。相変わらず高杉は新八を求めたし、新八はそんな兄を許し続けた。いくら情事でひどくされても、新八は翌日には高杉に笑いかけていた。新八は相変わらず心配性だったし、相変わらず世話焼きだった。ただの一つも、新八には変わったところなど無いように思えた。

しかし、それはあくまでも外見上の話である。見えないところ、心の奥の奥でずたずたに引き裂かれていた新八の心は、聞こえぬ悲鳴を上げていた。

『兄さん、どうして?』

最初の晩に兄へ投げ付けた疑問が、いつまで経っても溶けない氷のつららのように、新八の心の真ん中を突き刺し続けていた。


それでも表面上は何ら問題なく、月日は過ぎていった。

高杉は変わらず笑顔を向けてくる弟を憎み、蔑み、そして、愛していた。高杉は新八を抱く度に実感していた。それは昔から、ずっと感じていた事だった。

常に一人だった自分に、初めて心からの笑顔を向けてくれた新八。それなのに、彼に憎悪すら感じていた。愛する程に遠くなるような気がしていた。それが何故なのかは分からない。父や母への葛藤なのか、自分がこうなってしまった事を弟のせいにしたいのか。それでも、複雑に絡み合った心の根底で、彼は心から新八を愛していた事だけは確かだ。
結局、一言も伝えられなかったけれども。


そんな兄弟のすれ違いは、水を打った時に広がる波紋にひどく似ていた。等間隔にだが、徐々に広がりが大きくなっていく波紋。それは波打ちながら、緩やかに静謐を破っていく。

季節はちょうど春に差し掛かり、新八が高校に入学した折の事だった。

新八が突然失踪した。その晩はひどく疲れていて、高杉は珍しく朝まで熟睡していた。眠る自分の隣から新八が抜け出した事に、高杉は全く気が付かなかった。

朝になり、ようやく新八の失踪が分かった。その時の高杉は、どこか打ちのめされたような気持ちを覚えていた。


―やはりお前も同じなのか

―母のように、父のように、お前も俺を置いていくのか


それなら、あとはもう始末するだけだ。見付けて眼前に引きずり出し、裏切り者を始末する。高杉が幾度となく裏切った部下に対して行ってきたことだった。そうやって彼はここまでグループを大きくしてきたのだ。それが義弟と言うだけで全く同じことだ。何を躊躇う必要がある?

だが頭ではそう思うのに、高杉の絶望は深かった。


―…新八を殺す?

―つまり、新八が居なくなる?


それだけは嫌だと思う自分が居ることに。



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終わった!終わりました、高杉兄弟の無駄に暗く重たい話が(救い所がねーよ!)。

ここからは新八を拾った坂田銀時さん(27歳・塾講師)の生活です。

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雨の日に子猫を拾うというエピソードならば、誰しも覚えがあるだろう。冷たい雨が降りしきる中、健気な猫の眼差しにほだされ、気付いたらその子猫を懐に入れていたという具合だ。もしくは普段不良ぶっている男子学生のそんな姿を発見し、恋に落ちる女生徒でもいいかもしれない。そんな事態なら銀時も何度となく漫画やドラマで親しんできたが、問題は拾ったのは“人間”であって、“子猫”でない点である。

雨の日に拾った少年は、名前を『志村新八』と名乗った。別段変わったところもない、いたって普通の眼鏡の少年である。だがそれは外見だけであって、彼の中身は違う。新八は己の名前以外、その過去や生い立ち、全ての記憶を一切合切失っていたのだ。


「どうですか、銀さん」

「いや、普通に美味いよ。美味いけど、」

お玉を片手に持ち、心配そうに味の加減を尋ねてくる新八に、銀時は若干言葉尻を濁しつつ答えた。不思議な同棲生活が始まって三日目の朝である。

一人暮らし用の小さなテーブルには、今やこれでもかとばかりに朝食の品々が並んでいた。二日間銀時の世話になりっぱなしだった為、そのお礼に今朝新八が早起きして作ったという。その行為事態に文句を言う気はないのだが、

「お前さ、飯の作り方は知ってんのに何で自分の事はさっぱり覚えてねーの?」

ついつい疑問を口にしてしまう銀時である。

それに困ったように首を傾げつつ、新八もお玉を置いてすとんとフローリングの床に座った。昨日銀時が買ってきてくれた自分の分の箸を眺める。

「それが分からないんですよね。自分の事を思い出そうとすると頭にもやがかかったみたいになって…でもご飯が作れるって事は、何かそういう職業だったんじゃないですかね?」

首を捻りつつもうんうんと頷く新八に、銀時がびしりと箸を向けてみせる。挟んだ卵焼きは小金色をしていて、年端もいかない少年が作ったものにしてはよく出来ていた。

「それはねーな」

言うなり、銀時がぱくりと卵焼きを食べる。それに新八が不思議そうに目を見開いた。

「何でですか?」

「だってお前、高校も行かずに働いてましたって感じじゃねーよ。何つーの、よく分かんねェけど」

答えつつ、新八の作ってくれたみそ汁を一口飲む。人の手料理を食べた事は本当に久しぶりだったので少し感動した銀時だが、今それを言うのもばつが悪いので黙っていた。
しかし、銀時の言うことも利に適っているのである。


新八はどう見ても苦労して働いていたように見えない。座るにしても正座しているし、箸の持ち方だって綺麗だ。一見、躾が厳しくなされた家庭の子供という感じがする。それに一昨日保護した時に着ていた服も、ボロボロに破けてはいたが物は良かった。銀時自身は詳しくないので知らないが、あれは一流のブランド品だったと思う。

そんなものを身につけられる少年が、わざわざ苦労して働くだろうか?


「そうですか…。でも僕、ご飯を作るのは好きみたいです。もし銀さんさえ良かったら、僕が今夜の分も明日も作りますから」

銀時の心中には気付かず、新八が茶碗を持って笑う。その手元は服の袖で隠れてしまいそうだ。一昨日保護した時に着ていた服はボロボロであったが為にもう着られずに、処分してしまった。したがって銀時の服を上下着せているのだが、どうも体格が違う為に非常に不格好である。長袖の上着はどうしても袖が落ちてくるし、ジーンズにいたっては裾を折って履いている。

それでも律儀にお礼を言う少年を見ていると、今日の仕事の帰りにでも彼の為に服を買ってくるかと思う銀時だった。


「…それなら、明日の卵焼きはもっと甘くしろよ?」

「はい!」

にこにこと笑う少年を不思議な生き物でも見るように見つめて、銀時は再び茶碗を手に取った。


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新八がデレてるのって新鮮かもしれないですね。基本、うちの新八って何だかツンツンしている気がしますからね。あー楽しい!デレる新八を書くのも楽しい!!

つーか坂田さん甘い。新八に対して甘い!新八のペースですよ、もう楽しくてしょうがないね。

というか、全て即興で書いている為に推敲も何もしていないので、文章に『ん?』と思う点があったとしてもご容赦下さると有り難いです(すみません)。


ではまた続きます!

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