綿貫芳樹は人生の中で絶頂の時を迎えていた。
世界有数の巨大複合企業グループの御曹司として生まれてから、30年余り。
煌びやかな世界でありながら、嫉妬や欲望が渦巻く芸能界に
身を置いてから20年ほど過ぎたが名誉ある賞を受賞した時よりも彼は興奮していた。

自分のために用意された婚約者との結婚を間近に控え、
前日の夜は眠れなかった。
「………若旦那様。お嬢様の準備が整ったぜ。」
自身の身の回りの世話と護衛を兼ねている使用人を務める守り刀が
声をかける。

「そうか……そろそろいよいよなんだね。」
藍色の髪と同じ色をした瞳を守り刀に向け、芳樹はそわそわとし始める。「「
「長かったものなぁ……お嬢様が学校を卒業するまでの時間が。」

守り刀の案内で芳樹は式場の長い廊下を歩く。
12歳年下の幼馴染兼婚約者が法的にも結婚できる年齢を過ぎたのは
つい先日のことだ。
あれよこれよといううちに挙式の準備が進み、婚姻届けを市役所に出した。
市役所にいた女性市長から豪勢な花束を贈呈されたのは記憶に新しい。
御堂に到着すると列席者が起立して芳樹を迎えた。
祭壇前にて新婦を待っていると扉が開かれ、白い花嫁衣裳に
身を包んだ新婦・姫宮満月が父親の秀一と共に入場した。
秀一から満月の手を受け取り、芳樹は満月と共に
バージンロードを歩く。
列席者が讃美歌を歌った後、神父は聖書朗読と祈祷をした。
「新郎、綿貫芳樹。貴方はここにいる姫宮萬月を病める時も健やかなる時も、
富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「新婦、姫宮満月。貴方はここにいる綿貫芳樹を病める時も健やかなる時も、
富める時も貧しき時も、旦那として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「………はい、誓います。」
満月の返答に芳樹は顔がにやけそうになるのを必死に抑えた。
にやけるにはまだ早い。
誓約が終わり、指輪を交換したところで芳樹はベールアップ・ウエディングキスをした。
そして結婚成立の宣言と結婚証明書に署名する儀が終わり、
新婦は列席者に結婚が成立したことを報告し、閉式を伝えた。

芳樹と満月は腕を組んでバージンロードを後にした。


続く。