2012-11-19 01:59
「でっひゃっひゃっひゃ!!!!」
「ぶほぉwwwwwwwwwwこwぽwおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「お兄さんも師匠も笑いすぎだよ!月丸が可哀そうだよ!」
「ごめ、ご、……ひー!」
「もう!」
てんつくてんと三味線の音が響く中、お兄さんと師匠は畳をバンバンと叩きながら笑い転げていた。
あの後、明さんはむさしとこじろーによって月丸から引きはがされ、とりあえず一発殴った後に、正気に戻った明さんにお詫びとして店に招かれたのだった。今回は、皆で。
「それに、しても!明君は突拍子もないことするねえ!」
「月丸もひょいひょい唇を奪われおってwwwwwwwwwざまあwwwwwwwwwwwwwwwww」
「いや、だってね旦那。梟さんが月丸さんのこと好きなら、月丸さんを俺の物にしたら梟さんも俺のものになるから。誰も傷つかない方法だろ?」
「――明。取り合えず一発殴らせろ」
「え、ちょ、姉御!?なんで!?」
「月丸ー。いつまでも端っこで落ち込んでないでこっちおいでよー!料理美味しいよー?」
「俺は、いい……」
「月丸さん……気持ちは分かるが、そう落ち込むn「ぎゃああああああああああああ!?!?姉御!!抜刀は駄目!!駄目だって!!」
「煩い。間男は死ね。というか男は死ね」
「姉御の男嫌い相変わらずっすね!!」
「くれまちゃーん。切傷は駄目だよー?」
「心得た」
「そういう問題じゃない!!」
「ぶふぉwwwwwwwwwwwwwwwwwごほっwwwげはっwwwwwwwwwwwwwwww」
「師匠……むせるほど笑わなくてもいいじゃないですか」
「だってのうwwwwwwwwwwwこんな阿呆にお前がwwwwwwwwwwぷぎゃああああwwwwwwwwwwwwww」
宴、混沌としすぎていて、突っ込みというか実況というか、いろいろ追いつかない。というか収集がつかない。
もう、諦めよう。
そう腹をくくり、私はお膳に箸を伸ばした。
「あ、美味しい」
純粋に料理は美味しかった。
臭みのない魚。酒蒸しにされているのか、ふんわりと独特の香りがする。一緒に蒸された野菜と一緒に食べると、味が更に広がる。
飾り切りされた胡瓜の浅漬け。小毬のお麩が入った上品なお吸い物。
見た目も味も、私には非の打ちどころがなかった。
それを、作った本人がお姉さんから逃げつつ蹴り散らかしているのはどうかと思うが、まあ真剣で追われたら私もそうするだろう。
お姉さんの表情は、本気だ。
「明さんって、なんか残念な人だよね」
「確かにね〜」
どことなく呟いた言葉に、さっきから押し黙っていた梟さんが肯定した。
「梟さんもそう思う?」
「まあね〜。アレには困ったもんだよ〜」
「え、えと、梟さんと明さんってどんな関係?いつも一緒に来るけど」
「都合のいい男かな〜?」
「そうなんだ……」
ここで、梟さんから『男女の関係』と聞ければ、私は少し安心できただろう。
明さんが月丸に口付けをしたのは、驚いたし、嫌だと思ったけど、それ以上に梟さんの思いが怖かった。
私にはそっけなかったり、辛いことを言う梟さんだけど、月丸の前では笑顔を見せて、女っぽい少し高めの声をだしたり。そんな梟さんから思わせぶりな言葉を聞くと、疑問が確信に変わりそうで怖かった。
「梟、さん」
「なに〜?」
「私……負けないから。ぜったい、負けないから」
てんつくてんと、騒音の隙間から三味線の音が聞こえる。
それをどこか遠くに感じながら、私は梟さんを睨み付けた。
なんて勝手な言葉だろう。だけど、言わないでおくには気持ちが大きすぎた。
梟さんであろうと……いや、誰であろうと、月丸のことに関しては負けたくなかった。
涙腺が悲鳴を上げる。
だけど、ここで泣いたら、それこそ負けだ。
ぎっ、と音が鳴りそうなほど、眉間にしわを寄せる。
そんな私を見て、梟さんはなぜか嬉しそうに、
「せいぜい頑張ってね〜?」
と、笑って言った。