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空木が咲く前に 四十四

「……で、これどういうことなの?」

弾む息を抑えながら宿木さんを宿屋の二階まで運んだ私は、どさりとその場に座り込み睨むように私は明さんを見つめた。

「まさか本当におぶり届けるとは思わなかったよ……流石しのぶちゃん。でも汗で化粧落ちちゃってるな。今手拭い濡らしてくるから……」

「いいから、説明して。どうして宿木さんはこんなふうになったの?」

じりりと音がしそうな程の時間がどれだけ続いただろうか。苦い顔をしたままの明さんは私と視線を交わしたまま動かない。

「私たち、今は仲間……だよね?頼れって言ってきたのはそっちでしょう?」

「そりゃそうだけど……。でも……」

「この仕事が終われば共同戦線が無くなるかもしれないかもしれないから?敵だと思っているの、私たちのこと」

半分明さんの優しさに付け込んだ脅しだと、理性は告げる。しかし、私の腹の奥でくすぶっていた疑問は私の口を止めることはなかった。

「知らないことだらけ。私が知らないことだらけが起こってる。伝える時間は十分にあったはずなのに。それとも知らなかったのは私だけ?私だけ仲間外れだったの?」

この城下町のことも、私そっくりな雪継様のことも、お城のことも、今の宿木さんのことも。皆それほど……いや、殆ど驚いてはいなかった。知っていたのだ。知っていたから驚かなかった。訓練されているから表に出さなかった?いいや、それじゃあ慎重すぎる態度が合わない。

「……私、そんなに頼りにならないかな」

「しのぶちゃん……」

明さんは苦しげな表情で視線を下に下げる。それは肯定なのか否定なのか、感情だけが突っ走っている私には分からなかった。

大きな男の人を背負うという苦しさは、私の頭の中の本質を引き出した。笑顔に誤魔化されていた疑いを私の表に出してきた。疑いは私の中で蜷局を巻き、その苦しさからか、瞳には涙が浮かぶ。

「しのぶ……明はな、別にお前のことが憎くて隠しているのではないと思うぞ?」

気遣い気な月丸の声。低く響くそれは、私に幾何かの冷静さを与えた。しかし、疑問はぬぐえない。

再び明さんと視線を交わす。押し付けるような疑問はなくなったものの、わだかまりは消えない。

「ねえ〜、仲間外れにされて怒るのは分かるけど〜、忍びなんて秘密の塊じゃない〜?それを話せってのは無茶な話だよ〜」

梟さんは、そう言うと楽しげに笑みを浮かべた。何が楽しいのかは分からないが、私は淡々と言葉を返す。

「それは分かってる。仕方ない話。でもね、私も全部話せ、なんて言ってない。必要な現状が分からないなら、危険が増すよね。それも仕方ない事?」

そう返すと梟さんは一瞬驚いた顔をして、ニヤァと厭らしく笑って私の髪を一房手にした。

「しのぶちゃんもそんな事言うんだ〜?へ〜?お荷物なのに偉そうな口叩くんだ〜?」

「……梟さん。しのぶちゃんを苛めるのは……」

「……いじめじゃないよ〜?事実。情報収集もお仕事でしょう〜?それを知らなかったからって他人に当たるなんて無様じゃない〜?」

そう言う梟さんはどこか怒っているようでもあった。確かにそうだ。情報を得ていないのは私の落ち度だ。目を伏せて恥じる。

「……ごめん、なさい」

全部自分のせいと思うほど酔ってはいない。でも、当り散らしてしまったことは確かだ。惨めさにじわりと目じりに涙がたまる。それがほろりと零れる前に、私は梟さんにぐいと髪を引かれた。

「っ、きょうさん……?」

「泣き顔は可愛いけどさ〜、それ被害者ぶってて気持ち悪い〜」

「そ、れは……」

「やめろ」

ニタリと笑った梟さんの笑顔は、月丸の一言で引っ込んだ。苛立たしげに舌打ちをして、私の髪から手を放した。

「ああもう!」

今度は明さんが投げやりに叫ぶと、明さんはそのままドカリとその場に座り込んだ。

「頭で考えるの本当に嫌い。脊髄反射で生きてたい。もう嫌だなあこの状況!」

「明さん……?」

梟さん以外が呆然としている空気の中、明さんはそのまま四肢を投げだしばたりと倒れ込んだ。

「俺はさあ、手足なんだよ。状況を観察してきて、戦果を挙げて、頭に届ける仕事が殆どなの!だから嫌いなんだよ状況が自分に預けられるのは!」

「ぷぷ〜。なにそれ〜。私に対しても脊髄反射なの〜?」

「ううん。愛故に色々考えてる。でも空ぶってる気満々。自信全くなし。梟さん今すぐ抱きしめてもいい?」

「……はぁ〜?」

「ごめんなさい。……あー、話し戻すけどさ、頭の命令なしに全部動くのは俺には許されてない。今言えるのは、宿木さんは極度の緊張の後は偶にこうなるって事」

「こうって……幼児化するって事?」

明さんの前まで移動し、膝を折って目線を合わせると、明さんはちょっと困ったようにへにゃりと笑った。

「そ。多分安心したいんだろうな。我儘言っても大丈夫な環境にいるって実感したいってことだし、触れ合える状況下に変わったって実感したいんだろうな。あ、」

「どうしたの?」

ピタリと明さんの動きが止まり、顔は青白く、脂汗まで滲んできた。

明さんはギギギ、と音のしそうな動作で視線を移動させると、ひぃ、と小さく声を漏らした。

「え、どうした……の……」

不審に思いながら明さんの視線をたどると、下肢を投げ出して畳の上で鼈甲飴を笑顔で舐める宿木さんがいた。

理解するには十分な要素は今までにちりばめられている。何より、宿木さんは幼児化している時の記憶もあるらしいのだ。ご愁傷様、と明さんに対して心で謝るというか哀れむというか、そう言った感情を含んで明さんを見やった。多分私と明さんじゃあ事の顛末は違うだろうが、それでも……この状況はヤバいかなりヤバい死ぬほどヤバい。

「と、とりあえず、化粧、おとそう、か」

「そ、そうだね……どうするの明さんねえどうしよう私どうすればいいか分からないんだけど先駆者として一言お願いします本当に」

一息の内に発した言葉に、明さんは儚く笑って、

「天に祈ろう」

と消え入りそうに言うので、私はこのまま宿木さんが元に戻らないことを少なからず……いやかなり祈った。

お知らせ

ここを再び公開設定したものの、続きを書くのはしばらく後になりそうです。

と言うのも、私が空木の雰囲気を掴められないでいるからです。
お借りしたキャラ様は濃厚なキャラ設定なので、会話文ならすぐに出来上がるのですが、話として纏めなきゃいけないのは少し違って、そもそも暫く文章を書いていなかったのでコツと言うか文章のおこし方と言うか、そういう物が鈍くなってしまっているので、少々時間を頂ければ、と。

暫くは今まで書いていたものを読み直して、雰囲気と流れを掴む作業に入ります。更にそこから文章を書いていくので、必要な時間がちょっと多いかも……しれないです、すみません。

お詫びに現代パロ明君を置いて逃げます。
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