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Many Classic Moments 23



*まとめ*





あんだけのすったもんだがあった挙句、結局は間者として誰かを送るのは今回は見送り……ということにまとまり(皆疲れたのね)、女装姿に疲れ果てた新八くんもお着替えしますよ。もちろんお部屋には一人です。いくら男の子とは言えど、こんな姿(女装)でいるのに皆の前でマッパになれる勇気はまだ新八くんにはないのです。
銭湯でも何でもないのに皆の前で堂々とマッパになる勇気、そうまさにどっかの武装警察の局長さんのような勇気、てかそれは未来永劫新八くんになくていいです(確かに)

でもね、新八くんがやれやれとばかりに女の子着物を脱ごうとしたらね、銀さんが普通にお部屋に入ってくる気がする。



「新八ィ、もう着替えちゃった?」

とか言って、今まさに見てるんだから聞かなくても分かるのに、お部屋に堂々と入ってきます。それにはピィッと飛び上がった新八くんも、反物箪笥の前で銀さんを振り返り、


「まだですよ、見りゃ分かるでしょ!てか出て行ってください、今から着替えるんで」

叱るんだけど、銀さんは言うこと聞かないからねえ。すたすたと新八くんのすぐ後ろまで歩いてきて、新八くんの背中に張り付くみたいにしてのしかかるから。のしって。新八くんの背中に肘を置いて、即座にリラックスムードですよ。


「えー。つまんねーなオイ。もう着替えんの?」
「いや重い重い重いィィィィ!!人の背中でくつろぐなっ!」

銀さんに全力で体重を掛けられ、新八くんもグギギと前傾姿勢になる。でもただでさえ今は気が動転してるし、女の子の格好に慣れてないこともあるので、前みたく銀さんをすげなく振りほどけないのですよ。


そしたら銀さん、

「………………」

何を考えたか、真下にある新八くんのつむじをまじまじ見た。そんでまじまじ見た後に、唐突にベローと新八くんのうなじを舐めましたっていう(銀さん)


「ひゃっ」

突然うなじなんてなめられて、ぞわわっと変な鳥肌。新八くんは変な声を出してしまう。そしてそれに気付いた後にカアァと頬を染め、背後の銀さんを叱り飛ばすよね。


「や、やめてくださいよ、ふざけんなァァァ!」

とか言ってるんだけど、新八くんの頬は赤いです。そして銀さんは久しぶりに新八くんに密着できたので、思う存分に、まさに今だとばかりに新八くんの匂いを嗅ぐっ!
新八くんが逃げないように背後から抱っこして、新八くんのうなじに鼻先くっつける!


「いやいや(スンスン)……ふざけてねえって(スゥスゥ)……ただ何となく(くんくん)……」

っておま、銀さんも匂い嗅ぎすぎなんですけどォォォォォ!!(ぐわっしゃんんんんん)
何もう!晋助と同じじゃねーか銀さんも!匂い嗅ぎすぎてセリフの間延びがハンパねえよ、だから獣かアンタらは!

でも銀さんに久しぶりに抱き締められたら、新八くんはやっぱり慌てると思いますね。晋助の顔が何故かチラついて、とても落ち着かなくなった。だから身体を硬くして、声を強張らせそう。


「ちょっ……マジやめてくださいってば。やめて銀さん。ふざけないでよ」

なぁんて。少し緊張した声で言うもんだから、銀さんもムカッとしたのね。


「……は?何で?俺が嫌なのお前」

急に低くなった銀さんの不機嫌な声に、新八くんはまた顕著に緊張する。でもコクリと頷いて、銀さんの手を外そうと力を込めます。


「銀さんが嫌な訳じゃなくて……だって変でしょ。こんな風にしなくてもいいじゃないですか、てか近いですって」
「何が変だよ。言ってみ」

でも今の銀さんの手は外れなかった。新八くんの力じゃビクともしなかった。代わりに新八くんを覗き込むみたいにした銀さんは、新八くんの肩先からひょいと顔を覗かせた。
銀さんの胸板が背中に密着しているこの体勢に、改めて新八くんの緊張は高まる。だって部屋に二人きりだしね、自分こそ女の子みたいな格好してるしね。


「……てかあの、何か銀さんは勘違いしてるんじゃないですか?僕がこんな格好してるからですね。僕のこと、どっかの女の子と間違ってるんでしょ?銀さんったら」
「はあ?勘違いなんかしてねーよ。別に新八は女の代わりでもねーし」

短い着物の裾を引っ張るみたいにして、だけどわざと強気で言う新八くんなんだけど、銀さんは茶化さなかったです。むしろますます不機嫌になっちゃった。
暗に、『銀さんの遊んでる女の子達と同じに扱わないでください』って新八くんが言ってるもんだから、ますますムスッとしたの。

でもねえ、新八くんとしては訳が分かんないんですよ。じゃあ何?って話だよね。急に来て、こんなんやって自分を困らせてさ。


「じゃあ何なんですか。てか本当にやめてください。マジ着替えますから、だから、」
「何でお前、もう俺に触らせねーの?」

再びジタバタし出す新八くんを腕の中に閉じ込めたまま、銀さんは新八くんの耳元に唇を寄せる。その仕草がまるで晋助みたいだったから、新八くんの胸は変にざわめいた。体格や声や顔立ちは全然似通ってないけど、そうやって後ろからひしと抱き締めてくるところも、こっちが嫌がっても全然言うこと聞かないところも、

素直な言葉なんて一向に吐かないくせに、なのに自分を求めて止まないところも、

やっぱり銀さんのそんな様子は新八くんの中の“晋助”を彷彿とさせた。だから新八くんの胸はきゅうぅと痛くなった。



「……だって、だから、もう僕らは子供の頃と違うんですよ?ね、銀さん。ダメですよ」

今度の新八くんは優しく言います。自分の身体の前に回ってる銀さんの手にそうっと触れる。でも銀さんはまだ離してくれないのです。


「何で。何がダメなんだよ。訳分かんねーよ、お前俺のこと嫌じゃねえって言うくせに」

耐え難いように声を押し殺した銀さんにこんなことを言われて、新八くんもうぐぐと言葉に詰まる。
だって銀さんの事が嫌なわけじゃないでしょ?むしろ新八くんはさ、銀さんが好きだもんね。銀さんの事を傷付けたくない筈だよ。

晋助へ抱いてる気持ちと、銀さんに持ってる気持ちは確かに違う。けど、そこで銀さんを突き放せるほど新八くんも非情にはなれないの。


「だって……」

でももう、何も言えないけどね。銀さんにぎゅうぅと抱き締められ、さっきとは、皆がいる時とは全然違う銀さんの雰囲気に飲まれてるのです。自分の首筋に顔を埋めてる銀さんが、ちゅっちゅっとそこかしこにキスしててもまだ無言です(いや、そろそろ何か言ってもいいと思います)

そしたらね、銀さんも少しだけ落ち着く。新八くんの体温に触れて、新八くんの匂いを嗅いで、今までずぅっと不機嫌だった筈の銀さんも少しだけ落ち着いた。
新八くんはやっぱり銀さんの安定剤なのだろうねえ。こうやって触れてるだけで、心が落ち着くリラックス効果あり。


「はあ……すっげえ落ち着く」

うっとり目を細めてゴロゴロ喉を鳴らす呑気な銀さんを、新八くんは少しだけ笑って振り返る。


「もう。てか僕のとこにわざわざ来ないでもいいでしょ。銀さんだったら、その、銀さんを待ってる女の子達もたくさんいるし……」

だけど言いにくそうにね!だって新八くんは知ってるもんね、銀さんの女遊びの派手さをさ。色んな女の子に手当たり次第いってる事も知ってるんですよ。
纏わり付かれたら手当たり次第に抱いて遊んでるという、まあ言っても銀さんだからね。戦がない日は体力持て余してるだろうもん。

けども銀さんは新八くんのおさげをいじりながら、平然とこう抜かす。


「つーかさ、別に俺は女とかどうでもいいんだけど。俺がヤってる女とか、アレ全部お前の代わりでしかねーし」

しれっとこんなん言って、てか本当に悪い男だよねえ。若さ爆発中の18歳とは言え、ヤっていいことと悪いことがあるでしょうよ(片仮名)
新八くんもそれにはさすがにギョッとする。

「はあっ!?な、何言ってんの!?それどういう意味ですか、てか女の子達に謝った方いいですよ!アンタ最低っスね、最低の下半身持ちですよね!」

ってオイオイ、新八くんってばイマイチ銀さんの言った意味を理解してないな。まず銀さんの無礼を糾弾してるしな、フェミニスト新八くんだしな(さすがに童貞クン)

まあ銀さんもね、新八くんのキャワイイ女装姿を見て、むちっとした美味しそうな太ももを見て、ムラっとしたのでしょう。だから新八くんに叱られてもひっついてるし、何ならこのまま美味しく喰べてしまいたいくらいですね。

銀さん的には、新八くんの頭からバリバリ喰べて、その全部を自分の栄養にしちゃいたいくらいですよね。新八くんのことが凄く可愛いからさ。すごく愛しいから。


誰よりも。



「(でもそうすっと、もうお前とこんなんできねーな……)」

って、新八くんの事をきつく抱き締めながら思う銀さんなのです。
矛盾だよね。新八くんと一つになりたいけど、新八くんになりたい訳じゃない。新八くんが居なくなっていい訳じゃ、決してない。だけどもう愛しすぎて、自分の身のうちに取り込みたいとすら思う。どこにも行かないように。自分以外の誰にも見せないように。

この矛盾が人を愛するって事なのでしょうね。



「……なあ。お前、俺のことどう思ってる?」

だから銀さんは、ぽつりと新八くんに聞いた。新八くんの顔を覗き込んでね。

「ええ?どうって言われても……銀さんは銀さんですよ?」


困ったように眉根を寄せて返事をする新八くん。
その素直な回答にふっと笑って、銀さんはまた尋ねる。


「なら、俺のこと嫌い?」
「えええ!?僕が銀さんのことを嫌うはずないでしょ!どんだけ長く一緒に居ると思ってるんですか、怒りますよ!」

新八くんの声には誠実さしかなかった。兄貴分として本当に自分を慕ってくれていると、自分を信じているのだと、そんなことは当たり前に銀さんにだって分かる。でもだからこそ、たまらなくなった。
家族でも仲間でもなく、今だけは自分のことを男として意識してもらいたくてね。


「じゃあ……好き?」
「え?好きって?」
「俺が好きだろ?な?……そう言って、新八。お前が好きな奴って誰だよ」

新八くんのうなじに唇を寄せ、たまらないように囁く銀さんの声は、少し掠れている。いつもの銀さんらしくない。でもだからこそ、言葉では決して繕えない剥き出しの心を差し出されたようにも感じる。

だけどちりっと首に走る甘い痛みは、やっぱり新八くんに晋助を思い起こさせた。


「(僕が好きなのは……)」

そう考えていたらもう、晋助の顔しか思い浮かばなかった。晋助のことしか考えられなくなった。

皆がいる時にはいつだって不機嫌そうな、その横顔。いかにも『こんな奴』って顔して、こっちをぞんざいに扱うその態度。
でも二人っきりでいる時には、ほんの少しだけ見せてくれるその笑顔。こっそり繋いだ指先の熱。他の誰も、自分以外の誰も知らないであろう、裸で触れ合ってる瞬間の肌の温もり。

いつだって恥ずかしくてムカついて、
なのに心臓がドキドキして鳴り止まないこの気持ちを、
甘い棘がハートに刺さったような、

こんな気持ちを持つのは自分の中には一人しかいなかった。



「(え……?僕……高杉さんのこと、好きなの?)」




それは本当に突然に。ひとひらの羽が、ふわりと自分の心に着地したかのように。頼りなく微かな、ほんのすこしだけの邂逅。

だけど確かにその考えが己の中に降りた瞬間、ぶわっと心が彩られていく。一斉に色付いて、自分を内側から満たしていく。

“好き”で。



「(僕、高杉さんが好き)」


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