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Many Classic Moments 43

*まとめ*


 ガチャ、ギャリッ、と不穏な剣戟の音が緑の山あいに響く。
 場慣れもクソもない敵の天人連中は、数でこそ三人を圧倒すれど、その剣技の如何においてはもはや三人の敵ではなかった。


 「薄ぅぅぅ!!凄え薄いな、てめえら幕軍の戦構えって奴はよ!!サガミオリジナルの0.02より薄いっつーの、ゴムにも劣るわ!」


 目の前の敵を斬り伏せたと同時に、横合いから飛び出てきた敵をも返す刀の一撃で仕留めた銀時が叫ぶ。敵が放つ剣数の多さなどものともせず、己に傷の一つ付けることさえ白夜叉は許さない。眼前の敵の土手っ腹に穴を開けたと同時、振り向きざまに敵の首を跳ねる姿は、まさしく戦場に降誕せし鬼。

 その冴え渡る剣技はさすがに白夜叉、されどそのセリフの下品さもさすがに白夜叉だった(銀さんクオリティー)。


「うっせェ銀時……少しは黙ってろ。テメェが喋ると俺の士気が落ちる」

 高杉もやや離れた場所から銀時の下品さに言及する。だがそうも言いつつ、一太刀で敵の喉笛を切り裂く剣の神速は瞬きすら許さない。むやみに刀を大きく振り回さず、鍔をなるべく己の身に引き寄せ、斬るよりも突くようにして敵を突き倒した。
 銀時もそうだが、高杉だとて狭い場所での立ち回りなど造作もない。師の教えは実に多方面に及んだから、雨の中での剣の扱い方も知っている。

 数の多さや足場の悪さなどものともしないそんな二名に、やや遅れを取りつつも懸命に立ち回っているのは新八だ。


「ちょっ、もう……何ですか、この敵の数!アンタらの首ってそんなに価値あんの?!」

 文句を付けながら、眼前の敵の刃を己の刀で受け止める。ギャリンッと火花が散り、白刃がぎりぎりと迫り来るは刹那の一瞬だ。しかし高杉と銀時に敵の大多数は引き付けられているので、新八が相手取る人数はそう多くはない。
 だから確実に立ち回れば、こんな状況に慣れている自分の方に分がある。勝ちを重ねていける──だが、新八がそう思った矢先だ。

 敵にぐぐぐと強く踏み込まれた瞬間、足元の地面が大きく傾いだ事にはギョッとした。


「っ!」

 敵と刃を合わせたまま、思わず足元を確認する。見れば、自分の足は崖の間際にあり、すぐ真下からは川音が激しく聞こえていた。ぬかるんだ地面が崩れ掛かっているのか、ところどころで落石や小さな落盤の水音が立っている。

 知らぬうちに崖際まで闘いは及び、それは自分たちの利にもなろうが、如何せん地面のぬかるみからは誰も免れない。
 自分は崩れかかった泥土の斜面に居るのだと知った時、新八の背筋にはさあっと恐怖が駆け上がる。

「や、やば……」

 でもどうにかして目の前の敵を退けようと躍起になっていた新八の視界は、突如として急速に開けた。



「──高杉さん!」

 素早く駆けてきた高杉により、新八と剣を合わせていたはずの敵は、次の瞬間に背後からバッサリと斬り捨てられていた。またしても絶体絶命のピンチを高杉に助けられ、新八はほうと息を吐く。
 高杉はピクリとも動かなくなった敵を見下ろすなり、新八を強く睨んだ。

「何やってやがる……こんな天人、テメェなら自分で倒せんだろうが」

 足元の崖が崩れ掛けている危険を、未だ荒く息を吐く新八は到底高杉に伝えきれない。そんな新八に業を煮やしたのか、高杉はもうさっさと踵を返そうとした。

「さっさと来い。向こうの敵は片付けた。あとは銀時が……」

 言い掛けて、素早く立ち去ろうとする。だがしかし、地に伏せた筈の敵はまだ絶命していなかったらしい。次には最期の力を振り絞ってばね仕掛けの如く起き上がり、後ろを向き掛けている高杉の喉を目掛けて刃を向けたのだ。

「っ、高杉さん危ない!」

 新八の咄嗟の叫びが功を奏した。その叫びが耳に届いた途端に素早く身を捻った高杉が、すんでのところで刀の切っ先を避ける。だけど、数ミリ単位で交わされた刃は高杉の左腕を掠め裂くに至った。

「──!!」

 目の前に鮮やかに飛び散る鮮血。ぐっと噛み締められた、高杉の唇。全てが振り向きざまの瞬きの一瞬の出来事なのに、新八の目にはまるでストップモーションが掛かったようにコマ送りにして見える。
 しかし、そこからは早かった。左腕を斬りつけられてたたらを踏みはしたが、高杉は右腕のみで手繰った刀で瀕死の敵の心臓を素早く射貫く。

 果たして、敵は今度こそ絶命したらしい。ハアハアと息を吐いた高杉が、敵の身体に突き立てた己の刀に掴まるようにしてずるずると地面に膝をつく。でも左手はだらりと下げ、右手のみで剣の柄に額を預ける様子が痛々しい。

「高杉さん!アンタ僕のせいで斬られっ……止血!止血しなきゃ!」

 ずるりと身体を低くして膝をついた高杉の傍らに、即座に座り込むのは新八だった。
 急ぎ高杉の怪我を確かめる。黒の陣羽織ごと斬られた傷口は赤く肉を見せている。骨には届いていないが、鋭い真剣で斬られた為に出血が酷い。

「ごめんなさい、僕のせいで高杉さんが……高杉さんが、」

 半ば泣きそうになりながら、新八はためらいなく己の額を守るための鉢金を外した。鉢金部分をかなぐり捨て、白布だけにしたそれを高杉の傷口にぐるりと巻いてきつく縛り上げる。
 その痛みに物も言わず顔をしかめ、だけど高杉は微かに笑った。

「何言ってやがる。俺が弱えからだ。ちゃんと……殺しとくべきだった」
「違う……違います!殺すとか殺さないじゃなくて、僕を助けに来なきゃ、高杉さんは……ごめんなさい。本当にごめんなさい……」


 高杉の言葉には嘘も強がりも毛頭なかった。今こうして斬られたのは、遠くの敵陣へと急く心にかまけ、目の前の敵の底力を見誤った証拠なのだ。なのに、新八は高杉に謝ることを止めない。
 その悲痛に満ちた顔を見ていれば、いくら高杉だとて分かる。新八のその苦痛。自分が斬られるより、高杉が斬られた事の方が、余程“痛い”に違いないのだ。

 止血の為に当てられた新八の白布が、即座に血の赤に染まっていく。血を吸って重く、より黒々とした陣羽織に包まれた己の左腕を見下ろしてから、高杉は新八を見つめた。

「斬られたことは仕方ねえ。だが傷口は深くねェ。まだ……闘える。俺ァ敵を斬る」

 たとえ四肢をもがれようと、高杉は敵と闘う覚悟をとっくに決めている。これくらいの怪我で鬼兵隊の総督を名乗る男が立ち止まってはいられない。
 けれど、そう宣言した矢先に叱責が飛んでくるとは誰も思わないだろう。それはこの高杉だとて同じく。

「バカですかアンタは!何言ってんの!いくら高杉さんだからって、両手が揃ってなきゃ刀は満足に扱えませんよ!刀と敵を舐めんじゃねーよ!早く僕の後ろに回ってください!」

 さっきまで泣きそうになっていた筈の少年は、もう決然と剣を取っている。高杉のみならず、そちらこそ決死の覚悟を決めたその様子。
 そして高杉を大喝するなり、己の後ろにいろなどと新八は言う。こんな新八の気迫には、さすがの高杉も一瞬は呆気に取られざるを得なかった。

「は……寝言は寝て言え。誰がテメェの指図に従うか」

 それでも高杉は高杉だからして、どうしても皮肉を挟まずにはいられない。なのに新八はブンブンと首を振って、そんな高杉の性分すら看過しない構えなのだった。高杉の言い分などもはや聞いてもいやしない。

 その上、前方にあった茂みから敵軍の天人が二名も飛び出してきたから尚更である。

Many Classic Moments 42


*まとめ*



 かつて負け戦を期した日と時を同じくして、降り出した雨は未だ止む事を知らない。降り始めた当初はポツポツ程度だった弱い雨足も、時の経過と共に次第と激しくなっていく。
 ザァザァと降り続く雨のせいで、山肌の土はぬかるみ、山間を流れる川の増水も著しい。それでも尚、攘夷の御旗を各々の心に掲げた侍達は剣を取り、あるものは槍を取り、山の中で幕軍や天人連中と戦い続けていた。



 「なあ、もう結構時間経ってるよな?新八、今何時くらいか分かるか?雨のせいで太陽の位置が全然分かんねーわ」

 降りしきる雨の中、雨雲の垂れ込める空を見上げてハアハアと息をするのは銀時だ。次々と湧いては現れる敵を斬って斬って、斬り続けている為か、既に時間の感覚もない。頬にべったりと付着した敵の血糊を、忌々しげに手甲で拭う。その横顔には薄く疲労が滲んでいた。
 問われた新八も、ふっと空を見上げる。もちろん銀時すら疲労感を放つ戦場であるなら、こちらは全身に倦怠感を纏わせて。

「あ……今は夕方の手前くらいだと思います。高杉さんが合流してから、もう一刻半は経ってますよ」

 言ってから、ふう、と息を吐く。

 高杉が合流して三人となってからは、やはり銀時や高杉と言った強者の放つ雰囲気に釣られてくるのか、敵の出現が後を絶たない。次々と現れてくる敵を撃退した数はもとより、高杉や銀時が斬り捨てた幕軍も数知れない。
 無論、銀時や高杉のこと。血飛沫を浴びこそすれ、己が血を流すような事態には至っていないのが幸いである。

 だが今はまだ三人でひとかたまりになって闘っているので新八に負担も不安もないが、如何せん足場の悪さだけはどうにもならなかった。何の舗装も為されていない山道なので、雨でぬかるんだ地面は酷い有様になっている。それに迫ってくる敵と闘うことに夢中になっているうちに、いつの間にか三人の足は山の中腹に差し掛かっていた。山間を流れる川の音が微かに耳に届くので、滝壺やらの水場も近いはずだ。



 「だなー……てか高杉が合流した件については、俺はまだ認めてねーけど。マジでここには要らねえ人材だしよ」

 新八に返事を返されて、銀時も気怠げに息を吐く。元は白かった筈のその戦装束なんて、今は最早血糊や泥で見る影もない。でも戦の疲れはあれ、まだ横目で高杉を睨んでいるのが至極銀時らしかった。

 そんな銀時を睨み返し、ちっと舌を打つのは高杉でしかなかろう。

「……死ね、クソ銀時が」
「てめえこそ死ねやクソ中二」

 もちろん即座に言い返すのは銀時である。両者における睨み合いも何度目か。
 そんな二人を交互に見て、いよいよ疲れ切った眼差しを向けるのは眼鏡の少年しかいやしない。

「やめろよ二人共……もうテンション高く喧嘩止めるのも、僕ァ疲れましたよ」

 ハァァと重く吐いたため息と、二人を見据えた眼鏡の奥の目が若干ジト目になっているのだって、そりゃあ仕方ない事である。何しろ敵を斬る傍らで常に高杉と銀時が諍いを起こし続けているから、もう既に喧嘩慣れし過ぎているのである。

「……ほんっとこんなとこでまで喧嘩してるとか、二人してどんだけ余裕あるんですか。僕なんか目の前の敵を斬ってるだけで精一杯ですよ」

 ぼやき感マックスで告げる新八を前に、銀時はいかにもしれっとしたいつもの表情になった。無礼にも高杉をきっぱりと指差して。

「あん?俺に余裕なんかねーよ。だって余裕なんざ高杉の前で見せてみろよ?敵みてェにバッサリ斬り殺されるのが山だっつーの」
「フン。当たり前だろうが。……かと言って、俺も手ェ抜けば銀時に殺られるのは自明の理だがな」

 銀時に指差され、高杉も軽く息を吐く。返す銀時はと言えば、腕組みでもしたくらいにしてニヤリ顔だ。

「当たり前だっつーの。背後にはくれぐれも気ィつけろよ、総督ぅ」
「テメェこそ後頭部には気ィつけろ、白夜叉。じゃねえと後悔するぜ?その少ねえ脳みそが俺にカチ割られてからじゃ遅えしなァ」
「てっめ高杉!今てめえと決着つけてやってもいいんだけど、マジここが頂上決戦の場でも構わないんですけどォ?!」

 ククク……と嘲笑う高杉に、いきなりガン切れるは銀時(そろそろ慣れようよ)。『はあっ!?』なんて即座に反応するところなんて、新八から見ても銀時がまだまだ余裕のある証拠であった。ククク笑いを絶やさない高杉も同様である。というかむしろ、銀時と高杉における至極いつも通りの光景ですらあった。

 けれども、放っておけばそのまま延々と続くであろう喧嘩を止めずにはおれないのが少年の性なのだ。


「た、高杉さん、銀さんっ!マジ止めろってば!そんなん言ってるうちにまた敵ですよ!」

 またも山道の横合いから飛び出してくる敵の天人を発見し、彼方さんを指差す。それを認めるなり、高杉は剣を構えなおした。

「チッ……まだこうも敵が残ってんのか。剣の腕なんざ十把一からげだが、さすがに数だけは多いな。つくづくこっちの喧嘩に水指してきやがる」
「だな。敵斬ってるうちに、いつの間にか山の中腹?くれェに居んぞ、俺ら」

 銀時も即座に高杉との喧嘩を止め、剣を握り締めた。目の前に迫ってくる敵の数を無意識に数える。今度の敵数は一、二、三四……五か。もしかしたら雨に紛れ、六や七、八の伏兵が居るやも知れぬ。

「つーか待って、今度は数がやたら多くねーか?」

 数えているうちに、銀時の顔にも少しの緊張が走る。無意識に新八を背に庇って、じゃり、と足を半歩踏み出した。

「ああ……だが敵数は今はどうでもいい。目の前の敵だけ見てろ。集中しろ、テメェら」

 高杉も敵を睨み据える。一瞬の気の緩みもないように剣を構える高杉の姿を見て、銀時は背後の新八を振り返った。
 ぐちゃぐちゃにぬかるんだ斜面を踏みしめて、ザアァと降り続く雨露で張り付いた髪を掻き上げる。

「足元に注意しろよ、新八。これ滑ったら多分やべえ」
「うん……雨の音とは違う水音がするし、多分近くに川があります。落ちないようにですね」

 促された新八もまた、緊張感を崩さない。だけど、そんな新八から出たフレーズに銀時は声もなく笑うのだ。

「川ね。なら、敵をぶん投げて下の川に落とすのは?」

 言って、横合いの高杉を好戦的に見やる。そんな銀時をチラと見ただけで、あとはプイとそっぽを向くのは高杉だった。

「テメェの好きなようにしやがれ、馬鹿力」
「よっしゃ。今日は好きなだけ暴れていいんだろ?クソ厨二」
「フン。どうせまだ暴れ足りねえんだろう。つくづく悪鬼羅刹の類いだな、テメェは。白夜叉なんざ大層な二つ名付けられてる割によォ」
「てめえこそ、その喧嘩っ早さは何だよ。総督っつーかクソガキの頃と全く変わってねーじゃん。俺に斬られる前にせいぜいここで輝けや、クソ高杉」
「俺に斬られんのはテメェだろうが、クソ天パ」
「あん?やんのかコラ」
「はっ、やれるもんならやってみろ」

「だからいい加減にしろよアンタらはァァァ!僕もう疲れてんの、アンタらにツッコむ体力なんて残ってねーよ!今は目の前の敵に集中ですってば!」


 高杉と銀時が話しているうち、その飽くなき喧嘩魂に新八がツッコんでいるうちにも、ドドドと凄い勢いで敵は眼前に迫り来る。
 天から降り注ぐ雨粒を払うように、三人は大きく剣を払った。




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