*まとめ*
お互いに生じた『好き』の気持をお互いに理解しながらも、やっぱり相手にはそれを伝えられず、だけど二人の間の距離は確実に近くなったような気がする昨今。
だから今夜も新八くんはひっそり晋助のお部屋にまで忍んで行って、こっそりラブラブして、明け方近くになった頃にようやく元の雑魚寝部屋に帰ろうかと思っています。
それでもきっと、お布団の中の晋助には止められてるんだろうけども。
「高杉さん……もう僕皆のところに帰ります。離してよ」
「うっせェまだ帰んな」
まとわりついてくる手を剥がそうとする新八くんなんだけど、晋助はムスッとしたまま新八くんを離そうとしない。新八くんの体温が心地良すぎて、この温もりに慣れると手放せないのですよ。新八くんがまた銀さんのところに帰っちゃうのも嫌だしね。
それは言わないけどね、ただ黙ってムスッとしてるだけだけど(これだからお前は晋助)
そんな困ったちゃん晋助には、ハアァとため息を吐き、優しい声で諭しにかかる新八くん。
「ねえ、本当にもう帰らなきゃダメなんですよ?だって朝皆さんが起きた時に、僕が広間に居なかったら変でしょ?銀さんだって……もし高杉さんのお部屋に行ってたことがバレたら、」
「……フン。そん時ゃそん時だろうが」
「まあ……そうかもしれませんけど。バレたらアレか、夜通し高杉さんとUNOやってた事にすればいいか……」(←新八くんっ、も、馬鹿ァァァ!!)
しかし新八くんも晋助の事が好きなので、晋助のワガママをどうにも止められない。むしろ裸の背中にチュッチュしてくる晋助の唇の動きに気を取られ、
「だからダメですってば……あっ」
などと、咎めつつも控え目に喘いでいます(新八くんっ自制!)
けれども、そんな甘い逢瀬も束の間に近付くタイムリミット。新八くんはようやく晋助の腕の中からするりと抜けだして、不機嫌マックスになって片手枕で寝転んでる晋助の枕元に屈んで、
「ごめんなさい、高杉さん。ね、怒らないでくださいね。僕だってほんとは、ずっと高杉さんのお布団に居たいんですよ」
甘い声で言って、去りゆく間際にはちゅっと晋助の頬にチューしてますね。それにはいくらぶーたれてた晋助だとて、即座に押し黙る効果あり!舌打ちしつつも、微かに頬を染めてると思われる。
しかしどんだけ君はタラシか新八くん!?っていうね。相手を好きだと自覚したら新八くんはとても優しいですね、新八くんのフェミニストぶりが光る一コマですね(フェミ?)
ここでようやくお布団を抜け、新八くんだって後ろ髪を引かれる思いで晋助のお部屋を辞した訳ですよ。パタン、と静かに障子戸を閉めて。
そして、半ば上りかけてる太陽を横目に見つつ、迫り来る朝の気配をそこかしこに感じながらも、お城の吹きさらしの渡り廊下をひたひたと一人で歩いていた。早く戻らなきゃ朝になっちゃう……そんな焦りで自然と新八くんの足も急く。
そしたら、急いで渡り廊下を歩き切った新八くんの肩を、後ろから急にグイと掴む手があった。
「──新八!」
その声に焦って振り返ってみれば、そこにあったのは銀さんの姿。だけど自分を見下ろす目にはいつものだらけた感はなく、その代わり何とも言えない感情を浮かべているように見える。ふと感じる違和感。だけど、いつかこうやって晋助の部屋を出た後で銀さんに呼び止められた時のように、即興の挨拶だけはしておいた。
「あ……ぎ、銀さん。早いんですね。まだ朝陽が上りきってないのに……おはようございます」
新八くんはどことない後ろめたさから目をキョロキョロ泳がせつつ、だけど生来持ってる律儀さで銀さんにペコリと頭を下げる。
そんな新八くんを黙殺する銀さん。まだ新八くんの肩を片手で掴んだままで。
「あの、どうしたんですか?もしかして早起きしちゃいました?銀さんにしては珍しいですよね、いつもだったら誰より遅く起きてるし、僕が何度起こしたって起きてこないのに……」
新八くんは焦って喋るが、銀さんの事を尋ねるばかりで、自分のことは決して語らない。自分が何故こんな明け方近くに渡り廊下を歩いていたかと、今まで何をしていたのかと、そして今居る場所は晋助の自室に程近い……などなど、迂闊に喋れば喋るほどボロが出そうだと自分でも分かっていたから、決して自分のことは語らない。
なのに、どれだけ新八くんに尋ねられようが、どれだけ語りかけられようが、銀さんはまだ黙っている。その紅い双眸に、何とも言えない感情を滲ませて。
そんな銀さんの顔をもう見ていられず、新八くんはおずおずと目を逸らした。その途端、肩に置かれたままの銀さんの手にぎゅうぅぅと力が込められて、その馬鹿力にはついつい顔を顰める新八くん。
「痛いですってば、銀さん。もうはなして」
思わずいつものような軽い調子で咎めた瞬間だった。
その辺の壁にドンっと背中を押し付けられ、むしろ身体ごと壁に投げ付けられて、一瞬だけ衝撃で息ができなくなった。
「っっ!!」
背中を強く打った時に身体に走った痛烈な痛み。瞬時に背骨を貫いた痛覚で、満足に息もできない衝撃。だけどそんな事は大した事じゃなくて、今の新八くんの頭を占めていたのはただただ驚きだけだった。
「……え?ぎ、銀さん?何……?」
ゴホッと咳き込んだ後、恐る恐る銀さんを見上げる新八くんの目には、驚きと困惑の色が浮かぶ。焦りや、とりとめない疑問が浮かんでくる。
だって今の今まで、出会ってから今まで、銀さんにこんな乱暴な扱いを受けた事はなかった。新八くんの中の銀さんはいつだってだらくさくて、やる気がなくて怠惰で、なのに突然めっちゃ煌めいて、いつも肝心な時は必ず力を貸してくれる。危ない時には必ずや助けてくれる。
『大丈夫かよ、新八。てめえほんと新八だな、新八でしかねーな』
にかっと擬音のつきそうな笑顔で、戦場でだってどこでだって、銀さんはいつだって自分に手を差し出してくれる。
戦ではどれだけ敵を斬ろうとも、その手の温もりは新八くんの中では絶対だった。だらけている時はあっても、自分に触れてくるその手は必ず優しかった筈なのに。
それなのに。
「ねえ、銀さん?や、やめて……怖いってば。何なんですか」
どう言っても、今の銀さんの手は冷たく自分を壁に縫い止めているだけだった。ギリギリと、未だ強い力で肩を押し掴んでいるだけ。
その力の強さには眉をひそめながらも、新八くんだって負けているばかりじゃない。だから目の前の銀さんをキッと睨むけれども、銀さんは睨まれて尚、まだ黙っている。
その顔に浮かぶものは、今度こそ新八くんを本質的に怯えさせた。だって今の銀さんの顔に浮かぶもの。それは憤怒でも困惑でも焦燥でもなく、ただの無表情でしかなかった。
「…………」
自分を冷たく見下ろす、その紅い瞳。なのに依然として自分を拘束する力強さ。
さっき壁に叩きつけられた時に打った背中が、今ようやくジンジンと痛んでくる。こみかみにじんわり浮かんだ汗と共に。
だからその時になってようやく、新八くんははっきりと感じた。思わざるを得なかった。
銀さんが怖いって。
「ちょ、ちょっと……マジ笑えないですってば。マジ痛かったですよ、さっきのやつ。銀さんに本気出されたら、僕には笑えないほど衝撃くるんですよ。桂さんとか坂本さんとかやっぱり凄いっスよね、銀さんと体当たりでボケツッコミしてて……」
そんな風に思った自分も、そう思わせた銀さんも信じられず、新八くんは本能的に顔を背ける。でもやっぱりまだこの状況をどこかで信じ難くて、いたずらにこんなことを喋ってしまう。
銀さんが次の瞬間には、
『うそうそ。悪ィ悪ィ、しっかしお前簡単に吹っ飛んだよな。俺の片手で吹っ飛ぶって何それ。壁に当てるつもりもなかったわ俺、軽い肩パンのつもりだったし。もっと肉付けなきゃダメじゃね、お前』
こんな事を話してくれるんじゃないかと思って、いつものようにだらくさく笑ってくれるんじゃないかと思いたくて、そう信じたくて、新八くんはもごもごと必死になって喋ってた。
そしたらね、ようやく銀さんが口を開いた。
「……なあ。お前、高杉の部屋で何してたの」