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Many Classic Moments 38





*まとめ*





そんな状況をぶち破り、

「やめんかお前たち!」

一触即発の様相で睨み合う高杉と銀時をずずいと引き離すのは、やっぱりお目付け役の桂の役割でしかない。

「全く……今は厳粛なる軍議の場なんだぞ。銀時は初めて軍議に出てきたかと思ったらなんだ!高杉と喧嘩をしたいだけなら出て行け!高杉も高杉だぞ!簡単に銀時に煽られて、鬼兵隊の総督がそれでいいのか!」

 銀時と高杉を交互に見て、くわっと大喝する。何ならげんこつでも落とさんばかりの勢いなので、さすがに叱られた二名だとて自然と黙らざるを得なかった。



 それなのに、

「だってコイツがうぜーんだもん。マジぶっ殺してェ」

銀時は高杉を指差し(人を指差しちゃいけません)、

「チッ……うるせェんだよヅラ。こいつをブチ殺すだけだ、放っとけ」

高杉は銀時に向けて舌を打ち(人に舌打ちしちゃいけません)、

「だからお前たちィィィィ!!それ思いっきり私情だよね、個人的な怨恨をオフィシャルな場に持ち込んでるよねェェェ!!??」

そんななめくさった態度は再度桂の逆鱗に触れるだけだった(当たり前です)。いつもなら安心してボケに回れるのに、新八も居ない今は得てしてツッコミ役に回らざるを得ない、そんな重責へのイライラも無論あった(桂さん)。

 もちろん桂だとて、今の高杉と銀時の不仲の原因は否応なしに分かっている。新八絡みの恋情が原因だとは気付いているのだが、それとこれとは話が別だろう。

「分かったから、ここにまで私情を持ち込むのはやめろ」

 重々しく言うなり、いつの間にか少し離れたところに自主避難していた坂本が、それをうんうんと頷きながら聞いている。何なら頷きながら、膝でにじり寄ってきたくらいにして。

「そうぜよ。側から見てると、おまんらまっこと阿呆の極みじゃ」

 しかもしたり顔で、あろうことか銀時と高杉をいなすものだから。

「どうせアレよ、新八くんを取り合ってそんなややこしくなっちょるんじゃろ?メス取り合って喧嘩しとるオス同士のようなもんじゃろ、ならジャンケンでも何でもして、平和的に解決への糸口を……あ、もしくは3Pとかどうじゃ!これ名案!」

……さらには嬉々として、左手の親指と人差し指で作った円に、ズボズボと右の人差し指を出し入れするものだから(もっさんんんんんん)。

「穴兄弟が何じゃ、まったく問題ないきに。大丈夫じゃろ新八くんなら、アッチの方も問題なくイケるぜよ。おまんらもちゃんとゴムだけは着け……」

 そして延々と演説をぶっこいていたところで、
ゆらりと近付いてきた二名の姿を坂本が見上げたところで、

「へぶぅぅぅぅぅ!」

 銀時と高杉、二人の鉄拳が坂本の顔面にストレートで入った。全く綺麗に決まった、息を合わせたかのようにぴったりの所業だった。

「さ、坂本ォォォ!!??」

 二人にブン殴られてズザァァッと畳の上を滑っていく坂本の身体を見送り、くっ……と眉間を絞っているのは桂である。静かに首を振り、そっと寂しげに目を伏せた(いや助けに行けよ)。

 そして坂本をブン殴った二人はと言うと、

「あーやだやだ、馬鹿がうつりそう。これだからへその緒と一緒にデリカシー切り落としてきた馬鹿は違ェわ」
「……確かにな。これ以上ない程くだらねェもんを殴っちまった」

銀時も高杉も極めて真顔で、そして極めて似通った仕草でぱっぱと手を払っているだけだった(お前ら)。だけど坂本に一発かました事で落ち着けたのか、二人して座り直しているのは不幸中の幸いか。

 そんな二人に向け、桂は悲痛なる声を荒げる。

「オイ貴様らァァァ!!坂本の死をどうするつもりだ、貴重な戦力がァァァァァァ!!」

 早くも坂本を亡き者にしているのが気になるが、それでも桂は真剣そのものだ。眉間を絞って懇々と説教するが、しかしあいにくとそれを真面目に聞くような二人ではない。
 従って桂もしまいには嘆息し、

「ま……まあいい。いや良くはないが、高杉も銀時も坂本の死は無駄にしてはいけないぞ。軍議の続きだ」

真面目な顔をして地図の前に座り直した。部屋の片隅から、

「いや、わしは死んでないからなヅラ。生きとる生きとる」

顔面血まみれの坂本がひょいっと起き上がるのにも関わらず(もっさんの回復力パねえ)、

「さて、どうでもいいから再開してくれ。高杉」
「いや生きとるからねェェェ!!??わしゃまっことピンピンしとるぜよ、生への充足感で満ち満ちとるぅぅぅ!!」

あくまでもキリッとした表情を保つ桂であった。そしてついさっきのされた筈なのに、綺麗にストレートパンチを決められたのにも関わらず、もう何でもないかのように円座に戻ってくるのは坂本でしかなかった。




 四人が再び地図周りに集まった頃合いを見計らうかのように、高杉がおもむろに顔を上げる。

「……何にせよ、俺の意見は変わらねェ。下の平原で敵は迎え撃つ」

 煙管の雁首を、地図上の平原にすいっと差し向ける。その目には早くも好戦的な色が浮かんでいた。

「何か策はあるのか?」

と、やはり険しい表情を崩さぬは桂。

「ないとか言わせねーけどな」

 銀時はいつもの平淡な顔で耳をほじっている。
 高杉はそんな二人の幼馴染を見て、低く笑った。くつくつと喉を鳴らす。煙管を持たない左手を空に翳して。

「フン。俺を馬鹿にするんじゃねェ。……今日のこの空気の湿り具合をみろ。明日には必ず雨が降る」

 
 確かに高杉の言う通り、今日の湿度は一段と高い。このまま行けば、明日には天気の崩れは免れぬ事だろう。
 だがしかし。

「確かに雨は降りそうだけどよ。でもさ、雨ん中闘って、またこの前みてーな負け戦になったらどうする?……この前も雨降ってたしさ」

 銀時が言及するのは、この間の戦の事だ。あの時も雨が降っていた。雨が皆の足場を悪くしたし、皆の視界を妨げた。そんな中でも闘い、たくさんの戦功もあったがたくさんの死者も負傷者も出し、結局は攘夷の軍は敗走を余儀なくされた。この山城に落ちてきたのだって、元はと言えばあの負け戦があったからなのだ。


 もうあんな戦はごめんだ。てか次は勝たなきゃやべえ。マジに。


そう銀時の顔に書いてあるのを読んだのか、高杉はまた笑う。そして不敵に言い放った。

「今度はその雨を使え」
「?……どういう事だよ」

 訳が分かんねえ、とでも言いたげな銀時を一瞥し、桂と坂本の顔を順繰りに見て、高杉は恬然と続ける。

「いいか、俺の作戦はこうだ。……最初、雨が降らねえうちは下の平原で敵と闘え。だが一旦雨が降り出したら、後方の山裾まで全員で下がれ」
「下がれ、とは何だ高杉。たとえこちらが勝っていても、下がるのか?」

 高杉の言い出した不可解な戦術に、訝しげに論を唱えるのは桂である。むむ、と首を傾げた。
 それに頷く高杉。

「そうだ。敵にはここは不慣れな地だ。雨が降れば地面もぬかるむし、川も増水する。それを使えばいい……雨が降った事で一旦は引くと見せ掛けて、あとは山の中に誘い込め。木々の間を抜けんのも、暗がりから仕掛けんのも自由だ。俺たちの十八番じゃねェか」

 そして面を起こし、ニヤリと口の端を吊り上げる。

「あとはテメェらの思うように、敵を全員ぶっ殺せ」


 瞬間、行灯の炎がパチパチと静かに爆ぜた。その灯りが高杉の顔に影を落とし、不思議な陰影をつけている。その横顔は既に戦への高揚と興奮に満ちていた。

「へー……それ面白そ。ガキの頃やってた遊びみてえ」

 まるで洗練された戦い方ではないが、そう告げる銀時にも心躍るものがある。自然の中の地形を使った“戦ごっこ”なんて、それこそガキの頃から何回興じたか分からないからだ。

 木の上から棒をブン投げられたりブン投げたり(危ない)、よそ見していれば川に突き落とされたり突き落としたり(だから危ない)、逆に山の斜面に潜み、側を通りかかった相手の懐にいきなり飛び込んで二人してゴロゴロ転がって行ったり……まさしくそんな遊びに明け暮れていたガキの頃を過ごした自分たちにしか、そんな闘い方はできまい。限りなく野生育ちの荒くれ者を擁する自軍には相応しいとも言えよう。

 ここに居る大勢の攘夷の連中のような、馬鹿で短気で豪気で、でもひどく人情味のある侍たち、つまりは人間臭くて泥臭い芋侍達にもお似合いの戦術なのである。

 天人に迎合し、甘い汁を啜るばかりの幕軍連中は確かにスマートな道場剣術を有するだろうが、それだけでは戦場で決して勝てやしない。いや、ここでは勝てないことを教えてやる。



 「ふむ……危ない手ではあるがな。こちらも気を付けて闘わねばならないが……だがそれはいいかもしれん。敵はこの山の地形なんて分からん。対してこちらはここで暮らしてる分だけ有利だ。いかようにも奇襲が掛けられるな」

 高杉と銀時の目がキラキラと輝かんばかりの様子を見て、桂はやれやれと嘆息している。こうなればもう高杉も銀時も言うことを聞かぬものと悟っているのか、もはや小言を付けるつもりもないらしい。
 その横合いから、ニッコニコの笑顔でずずいっと割り込んでくるのは坂本である。

「おお、確かにのう。雨が降ったら隠れんぼ……かつ、鬼ごっこに転ずる訳じゃな。こいつはまっこと面白くなるぜよ」

 なかなかのボンボン育ちのくせに、なかなかどうして坂本だって悪ガキじみているのだ。高杉にも銀時にも劣らない。
 よっしゃあ!なんて叫ぶ傍らで、ぐるぐる腕を回しているその姿なんて、南海は桂浜出身の悪ガキ代表そのものである。そのままの勢いで銀時にがっしと肩を組みに行く様子も。

「よっし!金時の出番ぜよ、こういうんは。わしのとこでも援護しちゃるきに」
「うん。敵も油断するだろうしな、俺らが一旦陣地に下がれば。その余裕ぶってる顔面に、横合いからでも木の上からでも一発ブチかませばいい訳ね」

 坂本に肩を組まれつつ、銀時は正面の高杉をチラリと見やる。高杉もまた、口の端を持ち上げて鷹揚に銀時を見た。


「奇襲隠密作戦はテメェの十八番だろうが、白夜叉」
「てめえも木登りは得意だったろ、どっかの総督さんよォ」


 互いの顔に浮かんだ戦への興奮や高揚をひりひりと肌で感じながら、軽口を叩き合うのも忘れずに。
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