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期待の裏切り2

遥香side

いつもみたいに・・・・・

プリントを口実に、横山先生のもとへ近付いた

私はいつも通りだったのに・・・横山先生は・・・どこか変わってしまった

「先生ー」

後ろに回り込んだらぐるっと反転して逃げてしまう

最初は遊ばれてるのかな?って思ったけど横山先生は、無表情でなんの暖かさも感じなくて・・・

怖かった

「先生?」

「点数下がってたで、ちゃんと勉強してるか?」

最初の第一句がこれだから、どこか心にぽっかりからっぽの穴が空いたような気がした

「っしてるよ・・・」

「してたら下がらへんでな、もっと勉強しやなあかんって事や」

友達も驚いたような顔で私と先生の空気を見ていた

だってそうだよね、いつも笑って喋ってたのに・・・

今は・・・、笑いのひとつも無いんだから。

────
「気にする事ないよ?きっと先生も何かあったんだよ」

そうは言ってくれるけど・・・、心配が拭えるわけじゃない

あれからずっと、横山先生は私に対する対応が変だし私以外なら笑って接してる

私に向けられてた笑顔が・・・今じゃ外からしか見れないんだよ

少し・・・いや、凄く寂しい。

「愛想・・・つかされちゃったのかな・・・?」

だって、そうとしか考えられないよね

何がいけなかったんだろ?
何がそこまで気に触らなかったんだろ?

ねえ、教えて
私は・・・先生の隣がいいの。

────
やっとお弁当の半分を食べ終わった頃

いつものくせで教室の入口を見てしまう

横山先生は・・・来てくれないのかな??

いつもより、食べるスピードも1段と遅くなって、美味しいって思ってたお弁当も無味無臭に感じる

挙句の果には、まだ残ってるお弁当のフタを固く閉めた

ずっしりと重いお弁当箱を片付けた時

廊下の方から聞きなれた声と、楽しそうな雰囲気が流れ伝ってきた

きっと方向からして隣のクラスで食事を済ませたのかな?

ずっとその方向を見てたら、隣のクラスの子と歩いて来た横山先生と目が合った

目線を外された瞬間、ズキンっと心にヒビが入った

もう・・・頭を撫でてくれることもないのかな?

────
体を軽く揺さぶられて意識が徐々に戻ってくる

「起きてよ、時間」

うっすら目を開けたら無表情の横山先生が立っていた

「え・・・?」

びっくりして、勢いよく体を起こした

確か・・・部活動が終わって、先生と話がしたかったから教室に残ってたんだっけ?

いつの間にか寝ちゃってたんだ・・・

「7時?」

そりゃ外も真っ暗だよね

鉛のように重い体を無理矢理立ち上がらせる

ぐらっと視界が揺らいで思わず地面に手をついた

「・・・っ」

風邪・・・ひいたのかな?

頭がずきずき鈍痛を走らせ、喉の痛みも増してくる

顔を上げると無表情で私を見下ろしてる横山先生
こんな時でも心配してくれないんだね・・・

「先生・・・?」

「早く帰りなよ」

近くの机とかに手を置いてやっと立ち上がった

踵を返そうとした横山先生の背中に、昔みたいにギュッと抱きついた

「邪魔、離れて」

こんな横山先生・・・、私は嫌いだよ。

しらない、私の知ってる横山先生は・・・

「嫌だ」

「邪魔言ってんねん、どいて」

「嫌だってば・・・」

正面に回って抱きしめた

横山先生の胸元に顔をうずめて、流れ落ちてくる涙を必死に耐える

「なんで・・・変わっちゃったの・・・先生」

「遥香が、嫌いやから」

本心なのかどうかは分からない

嘘でもジョークでも

でも、悲しかった

寂しくて苦しくて辛くて、この感情をどうにも出来なくて。

更に強く抱きしめる

ダメだな。
涙が後を追うように次から次へと溢れてくる。

最初は声を押し殺して泣いてたけど、もうそんなの出来なくて声を出して横山先生の胸元を借りたまま大声で泣いた

「ごめん・・・嘘・・・」

その一言が横山先生の口から出た後

ギュッと抱きしめ返してくれて、頭をポンポンリズムよく撫でてくれる

嘘でもいいから。

その行為には嬉しくて暖かくて居心地がよくて。

ずっとずっとそのままで時を流していた

私は抱きついたまま。先生は抱き締めてくれたまま。

泣きつかれたのか、風邪が悪化したのか

また、意識が薄れていく。

でも信じてるよ?私が目覚めるまで先生はずっと傍に居てくれてるって

期待の裏切り

遥香side

キュッキュッっと白いボードに真っ黒な文字が滑っていく

時計をチラッと見れば丁度カチッと針が動いた

【キーンコーンカーンコーン】

録画の音が悪いのか、くぐもったチャイムの音が鳴り響いた

「はい、かいさーん」

そう言ってマーカーをボードのふちに置いた横山先生

横山先生は1年の頃から担任を持ってくれている関西出身の若い先生

確か・・・まだ22歳だっけ?

さほど年齢も離れていないせいか、生徒からの人気も高くて他の先生からも信頼されてる

「遥香ー、プリントいらんの?」

数学のプリントをひらひら宙に泳がせながら聞いてきた

「ん?いる」

プリントを受け取る前に横山先生の背後からギュッと抱きついた

「おー、どうしたん遥香、最近くっ付いてくるなー」

理由なんて聞かれたら・・・きっと答えられないけど・・・

なんでだろ?とっても安心するから

力強く数秒抱きついた後ゆっくりはなれた

「じゃあ横山先生、また」

ふんわり微笑んで手を振ってくれた
────

お昼休み、皆より食べるの遅いからいっつもご飯の居残り組

友達はいつも待ってくれようとするけど、申し訳無いから・・・ね。

でも、このお昼の居残りも悪いものじゃない。

「やっぱりまだ食べてる・・・遥香、食べんのほんま遅いわな」

誰かのイスを引いてきて私の前に座った横山先生

「うるさい・・・」

「お、今日も玉子焼きやー」

そう言ってキラキラした目で片隅にある玉子焼きを見てる

「食べる?」

「え、ありがと!!」

ほら、こんな行動が先生らしくない、生徒みたいな感じがする。

本当は先生は職員室で食事を済ませるものなんだけどやっぱり横山先生の性格上、教室で皆と食べたいって

皆、って言っても居残り組。つまり私ぐらいしか居ないんだけどね・・・

「・・・?」

いつまで経っても食べようとしない

あーね・・・

玉子焼きを箸で挟んで横山先生の口元まで持っていった

そしたらおやつ待ちの犬みたいに、ぱくって食べる

「フフ」

「ん?」

ほんと、先生って感じが一切しない

「やっぱり美味しいわー、遥香料理上手いからな!」

「そう?玉子焼きは先生が食べてくれるからいつも作っちゃうんだ・・・」

正直言ったら玉子焼きはあんまり好きじゃない

でも横山先生は好きだし、あの食べた後の笑顔が好きだからお弁当には付き物のおかず

「あたしの為・・・か・・・そっか。嬉しいな〜」

そう言ってまたふんわり猫みたいに笑う

「横山先生が・・・喜んでくれたら私も嬉しい・・・」

ちらっと横山先生を見てみたらポっと頬が赤くなった

「なんなよー、可愛い事言うなー!」

髪がぐしゃぐしゃになるぐらい頭を撫でてくれた

「ップ・・・アハハ!」

こんな風に笑って、こんな風に抱き着いて、こんな風に頭を撫でてくれるのは・・・

そう長くは続かなかった
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