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『夕時。宵の口』

急激な淋しさ
不意に

子供なら
たぶん涙を零すでしょう

優しい母さんの手
探すでしょう

雑然と並ぶ品々の様に
私はぼんやりと立っていた

飾り立てた雑貨とか
笑った造形の作り物とは
まるで対になるように

淋しさが
不意に私を襲っても

作り物の強さで
ぼんやりと立っていた

貴方だったら
どうするの?

寂しいから。って
誰かを探す?

だけど
私は誰も探さない

ぼんやり立って
影になる

引き立てられた光は
より輝きを増すのかしら

それでも私は
ぼんやり立って
影になる

『月惚』

太陽は万人に注ぎ
温もりを与え

いつしか
我を焦がした

ヒリリヒリリ

傷付き焼け爛れた皮膚

ズルズルと這いつくばって
私は
夜に逃げ込んだ

夜には
月が待ち構えていた

月は優しく
静かに周りを包んでいた

夜に泣く童子有れど
夜に眠る人あれど

月はただ煌々と…




太陽で焼いた肌を
癒しながら
私は
いつしか月に恋をした

月は笑う

私は言う

この時に目を開け
この時に外に有り
この時に天を見る

それが無ければ
月には出会えぬと…

月は笑う

しかし
月も多くの人に光投ずもの

しかし
月は満ち欠け姿を変ずもの

私は昼に怯え

私は夜にも怯える

月の光は鮮やかで
こちらも
私のものとは
ならぬのであろうな…

『失敗ったと猫は言った』

気が付いた時
その猫は外にいた

親猫も
外にいた

だから
その猫は
それが普通だと思って
育っていった

しかし
世の中には
飼われている猫がいる

猫は
それをも知っていた

勝手に
いつかは自分も飼われる
なんて
思い込んでいた

しかし
時々 餌をくれる人あれど
時々 頭を撫でる人あれど

一向に
抱き上げて
愛を現す人は無し

同情としか思えぬ声

偽りにしか見えぬ声

数多を見つめ
時に
どこかの温もりを求める

しかし
真に猫を温める
そんな幸いは見えない

猫は拾われたくて
川に飛び込み身を洗った

猫は拾われたくて
可愛く鳴けぬかを試した

猫はただ拾われたくて
強くなろうとした

しかし
猫は言う

「失敗だった…」

誰も
今だに猫を拾わない

「老いていく体は戻せぬ」

知っている

「経験は減らぬ」

知っている

「失敗だった…」

ただ
幸せになりたいだけだ

ただ
誰かに拾われてみたい

ただ
互いに認め合い
存在を許し合える

そんな者に
拾われたいのだ…

だが今は
「失敗だ…」
猫は言う

俯いたまま
猫は言う

『死地と鳩』

激しい銃声と爆発音

物陰に隠れ

動けない負傷兵は

音のみで戦況を知る

それ以外
術を知らなかったのか?

「負傷したまま
戦地に出陣すれば
死ねただろうか?」

今となって 呟く


眼に焼き付いた

仲間の死に際

断末魔の声すら上げず
散り消えた花

焼き付いた光景

火薬の匂い

血の香

負傷兵の鼻には
悲しいかな
こびり付いている



泣きながら繰り返す懺悔

「許してくれ
もう、許してくれ」

見捨てた結末となり
今はただ
懺悔するしか出来ぬのか…

負傷兵は
死地を失った

故に
こびり付いた残像に
常に追われ

恐怖におののき

敵兵の影に怯える

「許してくれ…」

自らを壊せず

未だ
後遺症は残る

そして
負傷兵は見たらしい…

戦地に似付かわしくない
白い鳩を

偽りの平和

偽善の平和

それを象徴した
真っ白な鳩を

どうやら彼は
味方の生存兵の事すら

疑い始めたという噂だ…

『旅立った人』

そこが見たいと
旅人は言った

そこが無ければどうすると
周りは旅立ちを止めた

しかし
旅人は既に荷をまとめ

静止など
意味を持ってはいなかった

旅人は
まだ戻らない

戻りたくても
戻れない

旅人は
そこを目指して

未だに歩いている

誰か旅人を
知る者あれば

私に行方を教えて下さい

旅人は私

私なのです

誰か私を
かえして下さい

そこを見に
ワタシは行くのですから…

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