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『久方ぶりの空想劇』

化けの皮剥がしたなら
きっと
悪夢を見る事でしょう…

永久に消えぬ…

そんな悪夢に
むせび泣いているんだ

―愚かなあの娘にゃ
―イイザマよな

ヌラヌラ這い回る蛇が
不意にほざいた

―胎児に食い千切られて
―死ぬる夢を見よ…

ヌラヌラ這い回る蛇が
不意に笑った

天に焦がれ
陽光に焼かれている蛇

金魚に焦がれ
陽光に焼かれて死んだ蜘蛛

赤い尾鰭の金魚に
ただ
純粋に恋をしただけなのに

嗚呼
悲しい事だ
哀しい事だ

ニタニタ笑いながら

蛇が
また何かを罵っている

金魚に焦がれた蜘蛛と
己を重ねては

また何かを嘲ている

歌が浮かんだ

一つ また一つ

取り出してはぶちまけ
吐き出しては眩暈を起こす

天に焦がれた蛇

天に焦がれる蛇

紅ぁい御池に
いつか 還る

きっと
還る

還される…

『仙人掌が教えてくれた』

人から聞いた話だ

仙人掌には
あまり水をやらぬ方が良い

そうか
気を付けねばならぬ

そう思っていた

だが

嗚呼
これが仙人掌だったのか

後の祭と言う奴で

目の前には

根元からぼきりと折れた
薄緑色の姿

悲しくて溢れる涙が
ピタピタと仙人掌に注ぐ

仙人掌には
あまり
水をやらぬ方が良いのに…



ある日の事だった

ほんの気紛れで買い物に出

そしてコイツを買った

薄い緑色の体に
綿帽子を被り
スラリと真直ぐ立っていた

何やら愛おしくて

ふらり買って帰ったのだ

暖かい部屋の
日当たりの良い窓辺



なぁ、仙人掌

あの場所くらいは
気分が良かったか?



たっぷりと水をやれば

生き生きとした色が
更に増したような気がした

それから
私の心には小さなゆとりが
ほんの少し出来た

そんな気がしていた

愛しい同居人は
いつも真直ぐ立っていた

愛情を注げば
黙ってそれを受けて

ポコポコと小さな
自らの破片を増やした

可愛かったのだ

ただ
愛情表現を知らなかった

水をやる事だけ

愛を注ぐだけ

それしか
私は知らなかったのだよ

外はザアザアと
雨が降っている

そんな日でも
水をあげていた



目の前には
ぼきりと折れた仙人掌

ただ
コイツは

必死で立っていた

溢れ過ぎた愛情を
コイツは必死で耐えていた

…感謝するよ…

涙ながらに
また 一つ零した

…すまなかったな…

愛情を注ぐだけでは
いけなかったのだな

後悔先に立たず

誰かが教えてくれた
言葉だ

倒れた仙人掌に
また一つ涙が落ちる

…何度も言う

仙人掌には
あまり
水をあげてはいけないのに

『蜘蛛餌』

細くて頼りない蜘蛛の糸

光に輝けば
綺麗だけどもさ

織物上手…


必死で紡ぎ出した糸

だから
簡単に切れたりしないよ

綺麗だと笑っておくれ

蜘蛛も天を見ている…


ある日の昼下がり

地味目な蝶々
アレアレ 捕まった

蜘蛛が忍び寄れば

―助けて 救けて 殺される

随分な物言いだと
蜘蛛は呆れて目を伏せる

―殺すんじゃない
―糧にするんだよ

思ってみたが
黙っていた

そんなに言うなら
待っててあげようか

そんなに言うなら
さあ お逃げ?

アンタの羽に
嫉妬した訳じゃない

アンタを食べなきゃ
死ぬ訳でもない

黙ったまま
藻掻いてる蝶々見つめてた

それは
寒い寒い秋の昼下がり

季節を違えた蝶々よ

逃げてどこへ
行くつもりなのか

逃げてどこを
飛ぶつもりなのか

『龍待ちの日々』

―約束事―

きっと 帰る
我は 汝と契約した故

我らが力 汝のために
奮うて来るから

しばし 待て……


―返答―

あい解った 待っている

何かの時は
迎えに行くよ

私しの願い乗せ
いざ あの彼方へ行け

愛しき龍よ……


―現実と夢の狭間―

約束を交わした龍は
天高く舞い上がりて
私しの見知った街へ
フワリと着地した

私しのために

そして
私しが願った夢のために

片羽の龍よ

貴方の澄み切った瞳は
あの惨状を見ただろうか?

私しが 街角で
悪夢に切り刻まれ

膝を折り 胸を張り裂いた

あの惨状と
悪夢広がる現実の光景

龍よ……知っているか?

私しが
また壊れてしまった事を


―足跡―

龍よ

今 何処にいる?

私しの元に帰る直前

姿を消したと
風の言う

私しの顔など
見たくも無くなったか?

私しと共にある事を
貴方も
拒否するに至ったか?

泣きながら待ち侘びる

優しい龍の面影

独りぼっちの
凛とした龍の面影


―空想―

待たれよ

待ち人を連れて
いつか戻らむ

我が無くとも
我の欠片が 汝と在る

待たれよ

両の眼を泣き腫らし
真っ赤に染め上げた汝を

我は見たいとは思わぬ

待たれよ

必ず帰る 必ず戻る

例え 我が片羽の龍でも
汝の元に 必ず 必ず…


―現在―

ぼうとした意識

ゆらゆらと歩く頼りない足

龍は 傍らにいない

夢は 所詮夢でしかない

帰郷を待ち侘びて

ただ ぼんやりと空を見る

夢を背に乗せ
龍が帰還する日など

本当に来るだろうか?

本当に信じて待てるのか?

本当に帰って来るのか?


―心配事―

片羽の龍が
居てくれたから

私しは
笑い 駆け 夢を見 戦った

全てを私から
根こそぎ奪い去った悪魔に
どうか

愛しい龍さえも

切り刻まれては

おりませんやうに……


―願い―

私しの元に

龍が

単独であっても

帰ってきますやうに……

天翔る龍よ…

どうかまた

私しの元で

共に天下の夢を見よう?

私しと共に

天下の夢を 見よう……

『とある絵描きの話』

ある所に一人の絵描きがいた。

そいつの描く絵ってのは、一般人にしたら描けないが、他の絵描きにしたら下手な絵でしかなかった。

その絵描き自身、他の絵描き達よりも、絵に対する誇りや自信、愛情、情熱ってヤツが欠如している気がしていた。

それでも、彼は思うがままに筆を走らせていた。

下手なりに。

出来る範囲で。

だが、ある日の事だった。

フラリとその絵描きのカンバスを覗いた他人が言った。

「何だこの絵は!」

彼はただ、流れゆく川を、自己の世界を反映させて描いていただけだったのだが、覗いた他人には、阿鼻叫喚の地獄絵図にでも見えたのだろう。

恐怖にも似た驚きの声に、絵描きはパタリと手を止めてしまった。

しかし、彼は筆を折るには至れないと察してもいた。

どんなに不気味と喚かれようとも、誰もが目を覆い、見てくれなくなろうとも、彼にとって、絵とは唯一の捌け口であった。

日々の嘆き、悲しみ、喜び、感動する全てを、彼は絵に留めたいと思っていたからだ。

欝屈した精神でさえ、カンバスにぶちまけると、それは「作品」となって、彼を満足させ、落ち着かせた。

ただ…。

周りは、そう思うとは限らない。

承知の上だった。

理解しているつもりだ。

しかし、残念ながら。

彼も人間であるが故に、自分の絵が評価されない事を悔やみ、理解されない事を悲しいとも感じた。

それでも、彼の絵は進化するどころか、ますます屈折してしまう。

花を描いても、木々を描いても、空を、夢を…何を描いても、彼の絵は、皮肉混じりの絵の具の塗りかさねでしかない。

ある人からすれば、彼は「病気」であったが、他の誰かからすれば、彼はただの絵の下手な絵描きだった。

そして、彼自身にしてみれば、彼は彼でしかなく。

彼の絵は、どうする事も出来なかった。

そんなある日。

彼は、ふと描く事を辞めた。

いや、辞めてみたと言うのが正しい。

しかし。

彼が絵を描こうと、描くまいと、世間には何の関係もなく。

どこかで誰かが、何かに耐えられずに独り死んだとしても。

周りの一部が驚くだけで、特に何かが変わるわけでもなく。

描かれるのを待っていた絵が、生まれてこないだけであった。

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